Forår i København - Tivolis åbning

コペンハーゲンの春・チボリの開園

デンマークの首都コペンハーゲンは、北緯55.68度、樺太の最北端よりもさらに北に位置しています。

メキシコ湾流の延長でヨーロッパに向かって流れる暖流と偏西風の影響で、北欧を含む西ヨーロッパ諸国一帯は、緯度が高いにもかかわらず、比較的、温暖な気候です。緯度の高さを感じるのは、太陽の力。北欧で感じる太陽は夏でも穏やかで優しく、冬半期には、なかなか顔を見せてくれないのです。春分や秋分の一日あたりの日照時間は日本と変わりありませんが、冬には8時がずいぶん過ぎた頃にようやく明るくなったかと思うと3時には薄暗くなり、夏は4時辺りにはすっきりと明るく、夜は8時過ぎから11時近くまで長く美しい黄昏どきが楽しめます。

四季は日本のように等分されているわけではなく、春と秋がほぼ一ヶ月半、夏の三ヶ月以外の半年を冬として一括りすることが多いため、一年を冬半期と夏半期に分けることが一般的です。近年、日本でも使われている概念「ヒュッゲ」は、心が温かく満ち足りた状態やひとときを意味しますが、デンマーク独特の湿気の多い暗い冬をどのように気持ちよく過ごすかという発想から生まれたのではないかと思うこと、しばしです。厳しい冬が長く続くからこそ、明るく美しい夏を迎える気持ちには並々ならぬものがあり、その心地よい気候をどれだけ存分に楽しむか、という考えに結びつくのだと思います。

北欧の春は遠くからゆっくりとやってきます。2月に黄色節分草や待雪草がひっそりと春を告げると、雨の日がだんだん少なくなり、太陽の力が少しずつ戻ってきます。クロッカスが咲く頃には空が春の色に変わります。そして3月下旬、シラーや水仙が咲き始めると、復活祭の季節がすぐそこまで来ていることを感じ、春を迎える喜びに溢れます。

復活祭は、キリストの死と復活とを記念するので、キリストの誕生を祝うクリスマスに並ぶ宗教的な祭日[註1]ですが、古来の光と春の女神を愛でる春分祭と融合して、今の復活祭になったという説もあります。北欧では「春のお姫さま」が光あふれる陽気にのって春を運んでくると例えます。厳しい冬が過ぎてゆき、再び春が巡ってきたことを喜び、季節の再生を祝う慣習は、切り絵や花、イースター・エッグなどを親しい人に贈り、春が再び巡って来たことを喜び合うという形に反映されています。

デンマークでは宗教的な意味合いは薄らぎ、春の到来にちなんだ一週間あまりの休暇として扱われています。クリスマスには家族や親族で揃って祝い、いつ何をして何を食べるかなどにも決まりがあり、友人に会うことなど考えることすらないのですが、復活祭は、親戚や家族で集まるだけではなく、友人と出会ったり、旅行に行ったり、いろいろな過ごし方があります。

コペンハーゲンの春は、デンマーク文化を象徴する『チボリ』の開園で始まります。

『チボリ』は、パントマイムやバレエ、音楽や芝居などの芸術やおいしい食事、遊園地でのひとときが楽しめる総合文化施設です。1800年代中期のヨーロッパで花開いた庭園文化が現存する文化遺産的な要素を持ち合わせている傍ら、デンマークのエンターテイメント文化やアミューズメント文化を先駆しています。「ヒュッゲ」を体現するスペースとして、デンマークの人々にとって特別な存在です。

「チボリ」はイタリアのローマ近郊に実在する太陽に恵まれた美しい街の名前に由来しますが、1800年代には、美しい庭園で散策や愉快な寸劇やサーカスなどのアトラクションを楽しむことができる有料の文化施設を示す言葉としてヨーロッパ全般で使われていました。アミューズメントパークの元祖を「チボリ」という言葉で表現していたのですね。

日本では「チボリ公園」と紹介されているようですが、『チボリ』は有料で庭園での散策やエンターテイメントを楽しむ施設なので、パブリックスペースを示す「公園」とは少しニュアンスが異なるように感じます。ここでは、デンマーク語での名称をそのまま使いますね。

『チボリ』は、今から179年前の1843年に開業しましたが、1993年までの150年間は4月から9月までの夏半期のみ開園する施設でした。美しい庭園を舞台にさまざまな催しが繰り広げられるコンセプトなので、北欧デンマークの美しい夏が終わりを告げると、花の調達や手入れが難しく、球根花が揃い始める3月末まで休園せざるを得なかったのはないかと思います。現在、『チボリ』は秋開園とクリスマス開園も定番となっていますが、夏半期のみの開園という150年の文化は今でも随所に残っているように感じます。イタリアの太陽に恵まれた美しい街の名前に由来する『チボリ』が、北欧デンマークで光に溢れた夏を楽しむ特別な空間として180年近く人々に愛され続けているのです。伝説的ですね。

現在、『チボリ』の春開園は復活祭の祝日に連動して設定されるため、開園時期が毎年変動します。開園から一ヶ月くらいの期間はおびただしい数の球根花で彩られ、園内一帯に漂うヒヤシンスの香りとともに待ち詫びた春が満喫できます。

1843年の創業時から花と音楽が溢れるスペースだった『チボリ』には、創業翌年の1844年に創設された世界最古の少年少女音楽隊「チボリガード」が現存します。デンマーク王室をお護りする近衛兵に倣って『チボリ』を護る少年衛兵隊として発足した「チボリガード」には、発足当時から存在する「鉄砲隊」と、マーチ太鼓とピッコロで編成される「鼓笛隊」、そして、54席の吹奏楽オーケストラ「吹奏楽隊」の3部隊があり、8歳から16歳の少年少女100名近くのメンバーで活躍しています。近年、デンマーク王室近衛兵が女子の入隊を認めたため、近衛兵をお手本としているチボリガードでも2015年から女子の入隊が許可されました。近衛兵に倣った美しい祝賀装束を装ったチボリガードによる定例パレードや野外コンサートは毎週末に繰り広げられ、チボリを訪れる人々は、園内に響き渡る音楽とお伽の国から抜け出したような姿を楽しむことができます。

『チボリ』の春開園の初日は「チボリガード」がコペンハーゲン中心部を数々の行進曲を演奏しながらパレードを行います。『チボリ』の開園を告げるパレードは、コペンハーゲンに春が来たことを知らせる喜びに溢れた行事です。

[註1] キリストの復活を象徴する「復活日」は「春分の日の後の最初の満月の次の日曜日」に祝うことになっています。年によって日付が変わる移動祝日で、3月22日から4月25日の間のいずれかの日曜日になります。デンマークでは、イエス・キリストと使途たちの「最後の晩餐」を記念する聖木曜日、キリストが十字架にかけられた聖金曜日、キリスト復活の日とされる日曜日と翌日の月曜日が、復活祭にちなんだ一連の祝日となっています。

[註2]「チボリガード」の活動については、こちらでご紹介しています。合わせてご覧ください。

 
 
 
 
 
 
 
 
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