Smørrebrødsugen
スモーブロ週間
デンマークでは、今年(2025年)6月9日からの一週間、ホールグレインパートナーシップ主催で「スモーブロ週間」が催されました。
今回の記事では、「スモーブロ週間」と主催の「ホールグレインパートナーシップ」についてご案内します。
「スモーブロ週間」とは
「スモーブロ」とは、ペーストを塗ったパンという意味です。かつては、ラードを意味しました。バターが高級品として手に入るようになると、バターを塗ったパンが重宝がられましたので、スモーブロはバターつきパンという解説もよく見かけます。
「スモーブロ」は、ロブロにバターやラードなどのペーストを塗り、その上に料理や具材を飾りつけた食のスタイルです。シンプルにチーズやハムなどをおいたシンプルなスモーブロも存在しますが、そこにきゅうりやトマトを飾ったりすると、夕食などにも使える料理に変身します。デンマークにはスモーブロに特化したレストランもあり、最低5種類くらいのパーツで組み立てられたスモーブロは美食として扱われており、デンマークを代表する食文化と言われています。
「スモーブロ」ではロブロを使うのが基本ですが、何品も楽しむ場合や、繊細な味の具をのせるときなど、例外的に精製された小麦を使ったパンを使うこともあります。ハレの日やお祝いの食事としてだけではなく、週一回は家庭での夕食に登場する献立としても親しまれています。
ロブロはライ麦全粒粉や砕きライ麦などが主原料なので、「全粒穀物製品」の代表格です。全粒穀物の摂取は国をあげて推進しているのですが、こちらは「全粒穀物のメリット」の章でご紹介します。
「スモーブロ週間」は、ロブロをベースとしたスモーブロに焦点をあて、全粒穀物の摂取を推進させることを目標とし、毎年6月に開催されている健康増進キャンペーンです。
今年の「スモーブロ週間」では、次のような活動が行われました。
全国187ヶ所の社員食堂に「スモーブロ週間」ポスターを配布、全粒穀物の摂取の一環としてのスモーブロの存在を食堂利用者にアピール。
社員食堂のメニューとしてスモーブロを特化。建築省の社員食堂では、1日に3万個のスモーブロを提供。
加盟スーパーでの告知と販売促進活動。チラシで「スモーブロ週間」を告知したり、関連商品をセール対象品にしたり、スモーブロを店頭販売するなどの活動が行われた。
スモーブロ用木製プレートを懸賞にした「お気に入りのスモーブロ」投稿イベントの開催。
「スモーブロ週間」に特化したスモーブロ・レシピの公開(このページの最後にご紹介しています。)
料理雑誌や実用雑誌での「スモーブロ週間」特集
スモーブロというデンマークに深く根付いている食文化をキャンペーンという形でとりあげ、人々に日々の暮らしで全粒穀物の摂取を啓蒙する活動は、わかりやすく、実践しやすいことが鍵となっています。また、このキャンペーンには、スモーブロというデンマークの食文化を新しい視点を取り入れながら若い世代にも伝えていく試みも含まれています。
ホールグレインパートナーシップとは
「ホールグレイン」は全粒穀物を意味します。「スモーブロ週間」の主催でもある「ホールグレインパートナーシップ」(The Danish Whole Grain Partnership)は、国民の健康増進を図ることを目的として、全粒穀物の摂取を推進する活動を行なっている官民連携の組織です。現在、この組織には、食糧庁、対がん協会、心臓協会、糖尿病協会、食品メーカーやスーパーなどのサプライチェーンに関わる民間企業、デンマーク産業連盟など、28の団体がパートナーとして加盟しています。
国としての栄養摂取の考え方に基づいた指導や監修、学術研究の共有や広報活動の提携、全粒穀物商品の商品開発と市場供給、全粒穀物の普及に向けた情報発信を行う活動など、加盟パートナーが、それぞれの専門知識やリソースを持ち寄り、協力しながら、人々がより多くの全粒穀物をとれるように取り組んでいます。
全粒穀物のメリット
全粒穀物とは、穀物の外皮や胚芽、胚乳をすべて含んだ状態の穀物を指します。外皮のすぐ近くに多く存在するビタミンやミネラル、食物繊維や抗酸化物質をすべて摂取することができます。また、プラントベース中心の食生活では、全粒穀物は重要なタンパク源にもなります。
デンマークの公式食指針では、1日あたり90グラム以上の全粒穀物の摂取が推奨されています。2019年には、全粒穀物の1日平均摂取量は、82グラムに達しています(デンマークがん協会の調査より)。
全粒穀物を摂取すると、心臓病や糖尿病などの生活習慣病の疾患リスクを予防することは、学術研究で明らかになっていることもあり、全粒穀物の摂取は健康を築く大きな要素と明記されています。
全粒穀物を使った食事は、腹持ちがよいのが特徴です。満足感が持続し食べ過ぎを防ぐことができるため、体重を適正に保ちやすくなると言われています。そして、全粒穀物に含まれる食物繊維は、血糖値の急上昇を抑え、腸の働きや腸内環境を改善することにも役立ちます。
全粒穀物は環境負荷が少ないため、健康だけではなく、持続可能な社会を考えるときにも重要なポイントです。註)
ホールグレイン食品とは
ホールグレイン食品には、さまざまな種類があります。粒はもちろんですが、全粒穀物を砕いたものも、全粒穀物を挽いてふるっていない粉も「ホールグレイン食品」に該当します。
以下に、デンマークでの「ホールグレイン食品」をご案内します。
<パン類> ロブロ、小麦全粒パン、クネッケなど
<朝食に使う商品> オートミール、ミューズリーなど
<パスタ> 全粒パスタ、全粒麺など
<米類> 玄米、黒米、赤米など
<その他> 全粒粉、挽き割り麦など
デンマーク人は、全粒穀物を選ぶ理由として「健康のため」を主な理由として挙げていますが、「満腹感」も重要な要素であると回答しています。
公式ロゴとマニュアル
「ホールグレインパートナーシップ」の中核的な取り組みは、「ホールグレイン食品」が入手しやすい仕組み作りと、「ホールグレイン食品」のおいしさを告知する活動です。
「ホールグレイン食品」を示すロゴは、消費者が認知しやすく、全粒穀物が多く含む健康的な食生活に貢献できる商品を選びやすくするために用意されています。目につきやすいオレンジ色のロゴは、デンマーク食糧庁との協働で開発されました。ロゴの使用は義務ではありません。
活動が開始された2010年にはロゴが入った商品は190点でしたが、現在は1,000点以上に増加しています。ロゴの認知度は10人中7人(69%)と高く、10人中9人がロゴを信頼していると答えています。ロゴを知っている人の80%が、買い物の際にロゴを目印にしており、10人中8人が、「ホールグレイン食品」を毎日もしくは週に数回ほど摂取していると答えています(2024年Megafon消費者調査)。
「ホールグレイン食品」を示すロゴの使用については、国の認可が必要です。その規定やロゴの使い方などが詳しく記載されているマニュアルが用意されています。このマニュアルに基づく「ホールグレイン食品」を開発し、「ホールグレインパートナーシップ」に加盟することで、商品パッケージに全粒穀物ロゴを表示することができる仕組みになっています。
ホールグレインパートナーシップの特徴
「ホールグレインパートナーシップ」は、国民の健康増進に貢献することに意欲的な組織や企業によって支えられています。デンマークでの全粒穀物の摂取は、わずか10年で2倍以上に増加し、5人のうち4人が全粒穀物を日頃の食事に取り入れるようになりました。この成果は、公的機関と非政府組織、そして民間企業との強力な連携体制によるものと高く評価されています。
下記に、ホールグレインパートナーシップの加盟パートナーからの声をご紹介します。
「消費者の購買のスタイルを変えるためには、消費者それぞれがよりよい選択ができるために必要な知識を持たなければなりません。ホールグレインパートナーシップの加盟パートナーが共通の目標を持って協力し合い、消費者がより健康的な選択をできるよう支援する必要があります。私たちが一丸となることで、さらに大きな成果を生み出すことができるのです。」
「健康的な選択肢こそ、簡単な選択肢であるべきです。全粒穀物ロゴによって、デンマークでは一目瞭然で全粒穀物を選べるようになりました。関係者が国民の健康増進に向けて協力することには、限りない可能性を秘めています。」
「一組織だけで国民の全粒穀物摂取量を増やすのは難題です。しかし、加盟パートナー同志が信頼と敬意を持ちながら一緒に取り組むことで、大きな課題に挑戦できるのです。」
ホールグレインパートナーシップの活動
ホールグレインパートナーシップでは、次のキャンペーンを主軸として啓蒙活動を行なっています。
全粒穀物の日(毎年1月17日):全国の自治体との連携
スモーブロ週間:6月
朝食週間:9月
夕食週間:11月
上記の4種類のキャンペーンの他、次の活動にも熱心に取り組んでいます。
学生に対する教育プログラムを介して「全粒穀物アンバサダー」を育成
食堂・フードサービス向けの全粒穀物プログラム
外部との連携協力
レシピ開発
加盟パートナーとの関係維持
加盟パートナー訪問による進捗確認、協働提案、アイデア・フィードバック収集
年2回の加盟パートナー会議の開催(ワークショップ、キャンペーン発表、最新の全粒穀物に関する学術情報の共有、消費者インサイトの共有)
全粒穀物の推進活動はさまざまな国で行われていますが、デンマークでの活動は、国民の健康増進に貢献することに意欲的な組織や企業の連携活動である点、消費者への浸透率が高い点が特徴で、ヨーロッパを中心に注目を集めています。
レシピ公開
ホールグレインパートナーシップのホームページに掲載されているレシピから、デンマークの初夏を彩る一品をご紹介します。この記事のトップを飾っているスモーブロです。ぜひお試しください。
じゃがいもとアスパラガスのスモーブロ
<材料> 2人分
ロブロ 8mm厚2 枚stk
じゃがいも(できれば、新じゃがいも)200 g
グリーンアスパラガス 4 本
ラデッシュ 2 個
マヨネーズ 大さじ1.5
バター 少々(ロブロに薄く塗る分量)
塩・胡椒(できれば挽きたて) 少々
<作り方>
1. じゃがいもを鍋に入れて水を張り、塩を加える。
2. 鍋を火にかけ、沸騰させる。沸騰したら火を止め、1時間ほどそのまま鍋を放置する。弱火でジャガイモにすっと火が通るまで茹でてもよい。
3. アスパラガスを1分ほど、ほどよく硬めに茹でる。ラディッシュは、薄い輪切りにする。茹でたじゃがいもを1〜2cm厚のスライスにする。
4. ロブロにバターを塗り、その上に、茹でたじゃがいものスライスを重ねる。その上にマヨネーズを飾る。
5. アスパラガスを2本ずつ飾り、ラディッシュの輪切りを散らす。
6. 食べる直前に、塩をふり、胡椒を挽く。
<情報・写真提供> ホールグレインパートナーシップ
Tak til Fuldkornspartnerskabet for at dele informationen og billederne.
註)米は環境負荷が他の穀物ほど低くないというデータが出ています。
デンマークの公式食指針
Source: Danish Veternary and Food Administration
「ホールグレイン食品」公式ロゴ