Julefrokost

クリスマス・ランチ

JULは「クリスマス」、FROKOSTは「昼食」「ランチ」を意味します。

JULEFROKOSTを直訳すると「クリスマス・ランチ」になりますが、実際には、クリスマス・イブの翌日12月25日もしくは翌々日の12月26日に親族が集まって楽しむ午餐を指します。ランチと聞くと、お昼に食べる食事のように思えますが、「クリスマス・ランチ」は、お昼過ぎから夕方遅くまでの4〜6時間、数々の料理を味わいながら、集まった人々とゆっくりと会話を楽しむ会を指します。また、雇用主が主催する年忘れの慰労会や、親しい友人が集まった忘年会もJULEFROKOSTと呼ばれています。こちらは、夕方から深夜にかけての会が一般的です。

12月は、クリスマス月です。12月の楽しみ方は、こちらの記事でご紹介していますが、クリスマスにちなむ「ヒュッゲ」には、クリスマスの焼き菓子を一緒に準備することだったり、焼きたてのクリスマス・クッキーをつまんだり、多めに焼いておいたクッキーをクリスマスの月のティータイムに少しずつ楽しんだり、とクリスマスらしい要素が加わります。ころころワッフル「エーブルスキーバ」や「グルック」「ミルク粥」などもクリスマス月の大切な脇役です。また、クリスマスの飾り付けが美しい街並みを楽しむこともヒュッゲです。

クリスマスの祝日に開かれる「クリスマス・ランチ」は、クリスマスにちなむ「ヒュッゲ」のハイライトの一つです。

近年のクリスマス・ランチにはさまざまなスタイルがあるようですが、伝統的には、オープンサンドイッチ・スタイルの食事「スモーブロ」を指します。日本でのサンドイッチは軽食に属すことが多いと思いますし、サンドイッチと言う言葉からは、イギリス式のアフタヌーンティーなどで登場する、ご婦人の手でつまめる軽くて上品なサンドイッチを連想される方が大半かと思います。デンマークのオープン・サンドイッチ「スモーブロ」は、軽食とはほど遠く、テーブルにお皿をおいてフォークとナイフで食べるボリュームのある食事を指します。

普段の食事やカフェなどでは「スモーブロ」一皿で食事を完結することもできますが、正式な午餐になると4〜6時間くらいかけて何品も楽しみます。前菜・主菜・デザートといったコース仕立てではなく、同じカテゴリーに類する料理をまとめてテーブルに並べ、数回ほどカテゴリーを変えて供します。最後にはチーズもしくは小ぶりのスイーツで締めくくります。デンマークで最も格式がある食事様式で、日本のおせち料理のような格式や、江戸前寿司に見られる食べる順序や具材の選び方に不文律があります。

「スモーガスボード」と呼ばれるオープンサンドイッチ文化を持つお隣の国に住むスウェーデン人にもデンマーク独自の食事文化「スモーブロ」が興味深く映るようで、スウェーデンからの観光客がコペンハーゲンの「スモーブロ・レストラン」で午餐のひとときを楽しんでいる様子をよく見かけます。

伝統的なスモーブロ・レストランでは、一品だけを注文することは稀です。寿司屋で一種類だけ握ってもらってお勘定という形が考えられないのと似ています。一人あたり最低二皿を頼みます。スモーブロのコース料理だと、3〜5種類の具材がパンと一緒に運ばれ、中の一品もしくは二品が温かい料理となります。ここで難しいのは、パンの選び方とパンをどのくらいの大きさで楽しむか、です。パンがどっさりパンかごに入って出てくることが多いのですが、ここでパンをつけ合わせのように手でちぎりながら食べることはご法度です。パンの上にのせる料理が供された段階で、具に合うパンを一枚お皿にのせ、その上に具材をのせて、一種類ずつ楽しみます。パンでお腹をいっぱいにしたくない人は、具材をのせる前にパンを半分に切るのはOKです。「スモーブロ」図鑑ができて、どのようにレストランで楽しめばよいか、何の具材がどのパンと合うのか、などが詳しく説明されていたら、どんなにか便利でしょうね。

スモーブロは、鰊のプレーンマリネで始めるのが王道です。鰊料理には、デンマークに古くから伝わるじゃがいもで製造する蒸留酒「シュナップス」をビールと一緒に楽しみます。鰊料理の後に、鰊以外の魚た料理を楽しみ、肉料理に進みます。飲み物はビールがメイン。クリスマス・ランチでは、じゃがいもをつけ合わせた肉料理が綿々と続いたスモーブロの後に出ることもあります。その後、チーズやスイーツを楽しみます。

スモーブロを支える縁の下の力持ちは、ライ麦パンです。小麦パンを合わせる具材もありますが、圧倒的な出場率を誇るのは、ライ麦パン。影の立役者ですね。

スモーブロ・レストランでは、12月にクリスマス・ランチ仕立てのコース料理を用意することが一般的です。クリスマス・ランチ仕立てになると、1回目で定番かつ最も人気のあるスモーブロを数種類ほど組み合わせ、2回目と3回目でクリスマスにちなんだ伝統料理を供する趣向です。12月ならではの味が楽しめるコース料理は、2時間前後でゆっくりと味わいます。

行きつけのスモーブロ・レストランでは次のような内容となっていました。

<1回目のサービング>

  • 鰊のマリネ・カレー風味のクリーム・茹で卵・胡椒草・ケッパー・りんご

  • ゆで卵・小海老・レモン風味のマヨネーズ・トマト・ディル・クレソン

  • 揚げたての白身魚のフライ・自家製レムラードソース・レモン

パンは、ライ麦パンと小麦パンがまとめて供されますが、一枚ずつ具材をのせて楽しみます。鰊にはライ麦パンを組み合わせるのが不文律。ゆで卵と海老には小麦パンを組み合わせることもあるけれど、白身魚のフライにもライ麦パンが一般的。パンのおかわりは自由ですが、ライ麦パンが足りなくなることが多いように思います。

<2回目のサービング>

  • 温かいローストポーク・パリパリの豚皮・紫キャベツ煮・きゅうり甘酢漬け

<3回目のサービング>

  • 4 種類のアソートチーズ・胡桃のポルト酒漬け・アプリコットの白ワイン漬け・ライ麦クラッカー

もしくは

  • リ・サラマン(ミルク粥のクリーム和え)&温かいチェリーソース         

12月25日もしくは26日に催される親族でのクリスマス・ランチの場合、13時くらいに集まり、18時前後にお開きという形が多いようです。

友人宅で毎年催されている12月25日のクリスマス・ランチは、以下の内容となっています。

  • 鰊のマリネ数種類(プレーン・カレー風味・ディル風味)

  • 鰊の南蛮漬け・紫玉ねぎ

  • スモークサーモン

  • 鰻の燻製・スクランブルエッグ・あさつき

  • 茹で卵・海老・トマト

  • 白身魚のフライ・レムラードソース (温かく供します)

  • ハム・イタリアンサラダ

  • 塩漬け豚・レバーパテ・煮凝り・辛子菜

    ここまでの料理には、スモークサーモンを除いてライ麦パンを合わせます。スモークサーモンには小麦パンを合わせます。

  • りんご豚 (温かく供します)

  • チーズ

  • マジパン菓子

今年は、我が家でも12月25日にクリスマス・ランチを主催しました。夫の娘2人と下の娘の家族、娘の母というクリスマスに必ず集まる常連メンバーの他、日本から1年の予定でコペンハーゲンに滞在していらっしゃるお嬢さん二人をお招きし、合計11人で食卓を囲みました。

当日に用意した料理は、次の通りです。

<最初のサービング> ・・・鰊グループ

  • 鰊のプレーン・マリネ

  • カレー風味の鰊マリネ

  • 鰊マリネと赤ビートのサラダ

<2回目のサービング> ・・・鰊以外の魚グループ

  • 鰻の燻製・生クリーム入り卵焼き・あさつき

  • ディル風味甘塩鮭の薄造り・ディル

<3回目のサービング> ・・・温かく供する魚グループ

  • 白身魚のフライ・レムラードソース

  • 魚のフリカデラ(白身魚のつくね焼き)・レムラードソース

<4回目のサービング> ・・・温かく供する魚以外のグループ

  • レバーパテ・マッシュルームのソテー

  • 豆と野菜のパテ

<上記のつけ合わせとして>

  • ライ麦パン

    (我が家では、鮭の薄造り以外には全てライ麦パンを合わせます。)

  • 小麦50%全粒パン

    (鮭の薄造りに小麦50%全粒パンを合わせます。)

  • 紫キャベツのサラダ(オレンジ・胡桃・柘榴入り)

  • ケールのサラダ(りんご・アーモンド入り)

  • にんじんと根パセリのオーブン焼き・味噌ドレシング和え

  • ロメイン・サラダ

<その後、温かく供する料理として> ・・・パンは使いません。

  • クリスマスハム・ケールのクリーム煮・キャラメルポテト

<食後>

  • みかん

  • 胡桃

  • クリーム・キス

  • クリスマス・クッキー

  • マジパン入りチョコレート

  • クリスマス風味のドラジェ

  • コーヒー・紅茶

13時過ぎに始めた会でしたが、お客様が帰り始めたのが午後6時前、それまで少しずついろいろな料理を楽しみ、楽しい会話と和やかな雰囲気に溢れたクリスマス・ランチでした。

この1年間、ライ麦パンの楽しみ方をご紹介してきましたが、この記事でお祝い料理の「影の立役者」でもあるライ麦パンの存在感をお伝えできていることを願っています。

ライ麦パンは、デンマークの食文化と常に一緒に歩んできたかけがえのない食材です。デンマークの食文化とライ麦パンは切っても切り離せない深い繋がりなのです。日本でもより多くの方々にライ麦パンのおいしさを共有していただける日が来ることを心から願っています。

1年間のライ麦パンをテーマにした記事をご高覧くださいまして、ありがとうございました。来年も引き続きよろしくお願いいたします。


文: くらもとさちこ
写真撮影: Jan Oster

<ご案内>
掲載写真はInstagram @sachikokuramoto.dkでもご紹介します。

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