Rugbrødssandwich

ライ麦パンのサンドイッチ

デンマークでは、8月中旬に新学年が始まります。この時期、新しい大きなリュックサックを背負った小さな子どもが目に留まります。新学年の始業式は耳にしませんが、入学式は行います。実際は「入学式」と呼ぶほどの改まったスタイルではないのですが、学校全体で新一年生の入学を祝う「お迎え会」といった温かい雰囲気が漂います。いつもより少しだけよそゆきの服を着た子どももいて、夏の明るい光のもとで、子どもたちの喜びと期待に満ちた顔はとびきり輝いて見えます。息子が通うシュタイナー学校では、名前を呼ばれた新一年生が一人ずつ舞台に上がり、担任の先生の温かい握手とともに、ご自身が野花を摘んでご用意なさった花束を受け取ります。全員が舞台に揃った後で、先生を先頭に皆が手をつないで、全校生徒が両腕を伸ばして作ったアーチを通り抜けて新しい教室に入る姿は、深く心に残る情景です。9年前にはとても大きく見えた全校生徒によるアーチですが、来年の6月には、背中をかがめて、窮屈そうに通り抜けて卒業するのかと思うと、月日の経つ早さに改めて驚きを感じます。

デンマークは医療や教育などの費用を公共機関が負担する高福祉国家です。職場での福利厚生制度も整っていて、多くのところで社内ランチが用意されています。一方、公立小学校の給食制度は各自治体の判断に任されており、各自治体が決めた枠内で、各学校が給食制度や売店などの仕組みを決める形になっています。給食がある学校もあれば、家庭科の一環として生徒が交代でランチを作るシステムを導入している学校もあります。また、私立の学校では、栄養バランスのよい給食を用意していることや、保護者がお弁当を作る必要がないという点をアピールするところもよく見かけます。いずれにしても、全体的に見ると、お弁当を持参する形が続いています。

デンマークでお弁当といえば、ライ麦パンを使ったタイプが最もオーソドックスです。ライ麦パンを数える際には1/2枚を一単位にとして数える点が面白いと思っています。1/2枚の1枚、1/2枚の2枚と数えます。給食も病院食もお弁当も1/2枚が基本単位です。1/2枚の3 枚が一食の基本で、食の細い人は1/2枚を2枚、食欲旺盛な人の場合、1/2枚の4枚以上などの目安があります。

1/2枚の基本ピースには、異なるスプレッドやトッピングを合わせることが一般的です。先日、夫の娘二人に「オーソドックスなライ麦パンのお弁当」を作ってもらったのですが、次のような組み合わせを用意してくれました。

① 1/2枚サイズのライ麦パン+ハム+赤パプリカ

② 1/2枚サイズのライ麦パン+豚の香味塩漬けスライス+豆苗

③ 1/2枚サイズのライ麦パン+レバーパテ+赤ビートのマリネ

④ 1/2枚サイズのライ麦パン+チーズ+きゅうりのスライス

⑤ 野菜スティック(にんじん、きゅうり、パプリカ)・ プチトマト・茹でとうもろこし

⑥ おやつ: ナッツ、ダークチコレート、季節のくだもの(すもも)

お弁当は手でつまみながら食べる形が基本です。野菜やくだものは生が中心、市販の肉加工品やチーズを利用した時短のお弁当が定番です。低学年では、ライ麦パンにスプレッドを塗った「ライ麦パンごはん」と野菜スティックが主流ですが、学年が上がると、パンで具をはさむバーガータイプが好まれるようになり、中学生くらいになると、近くのスーパーで買ったサンドイッチなどを食べることにカッコよさを感じる子どもが多いようです。

社会での興味深い傾向は、プラントベース食品への関心です。欧米での「ベジタリアン」という概念には乳製品と卵が入ることが多いのですが、プラントベース食品は野菜や豆腐などの植物性食品を指します。動物性食品の供給には環境への負担が大きくかかるという認識が浸透しつつあり、日々の暮らしにプラントベース食品を取り入れようとする動きが顕著です。若い世代ほど環境への配慮が強い傾向にあり、プラントベースの食生活への切り替えを試みる若者が急増しています。若者を中心とした動きはスーパーで取り扱う商品にも大きな影響を与え、10年前には考えられなかった種類と量のプラントベース食品が簡単に入手できるようになっています。

参考までに、前述のお弁当をプラントベースの食材に替えた形を合わせてご紹介します。まだメインストリームではありませんが、着実に根付き始めています。

① 1/2枚サイズのライ麦パン+赤ビート入り豆ペースト+きゅうりのスライス

② 1/2枚サイズのライ麦パン+グリーンピースとカリフラワーのスプレッド+胡桃+豆苗

③ 1/2枚サイズのライ麦パン+黒胡麻入り豆のスプレッド+赤パプリカ

④ 1/2枚サイズのライ麦パン+豆のスプレッド+アボカド

⑤ 野菜スティック(にんじん、きゅうり、パプリカ)・ プチトマト・茹でとうもろこし

⑥ おやつ: ナッツ、ダークチコレート、季節のくだもの(すもも)

プラントベースだと野菜の色を活かしたスプレッドでカラフルに仕上げることができるのも魅力だと思います。私は、白や黄色のいんげん豆などの地豆でスプレッドをまとめて作り、野菜で色に変化を出すようにしています。

2021年に食糧庁から出された現行の食指針では、環境への配慮が加わり、豆製品の摂取が初めて登場したことで話題になりました。そして、肉製品と乳製品の摂取を控える指針も加わりました。7つの軸からなる食指針の内容は次の通りです。

① 植物性食品を多品種、多すぎない量を食べよう

② もっと野菜とくだものを食べよう

③ 肉は少なく食べよう。豆類や魚を選ぼう

④ 精製していない穀物を食べよう

⑤ 植物性油脂や低脂肪の乳製品を選ぼう

⑥ 甘いもの、塩辛いもの、脂っこいものを制限しよう

⑦ 喉の渇きは水で癒そう

カラフルなキャンペーンポスター、素敵ですね。

また、食糧庁では、お弁当を用意するときの要項を5本の指を使った形で紹介しています。

① 親指 全粒穀物

② 人差し指 野菜(スナック野菜、サラダ、パンのトッピング)

③ 中指 パンに塗るもの/のせるもの(豆類、卵、チーズもしくは肉)

④ 薬指 魚

⑤ 小指 くだもの

今月から9年生に進んだ息子は、状況に応じて周りに合わせているようですが、基本的には次世代への環境を大切にしたいと願う菜食男児です。学校に持って行くお弁当は、全粒穀物と豆類と野菜を組み合わせたブッダボウルと呼ばれている形を好み、学校と同じくらいの時間を過ごす音楽活動に持参するのは、ライ麦パンで野菜や豆のスプレッドをはさんだ「ライ麦パンのサンドイッチ」です。学校と音楽活動へ持参するお弁当内容が違うのは、息子なりの仲間への配慮とお弁当を食べる時間制限が影響しているようです。

お弁当を用意する側の私は、豆を変え、野菜を変えて作るとかなりのバリエーションになるなぁと改めてライ麦パンの面白さを楽しんでいます。ずっしりしたライ麦パンで作るサンドイッチは、腹持ちがよいのが特徴。ライ麦パンの複雑な味を組み合わせることで、野菜や豆の組み合わせに味の奥行きが深まります。豆のスプレッドに加熱した野菜と生の野菜を組み合わせると、味と歯応えにバリエーションが加わるように思います。豆のスプレッドではなく、卵焼きやポテトサラダ、かぼちゃサラダ、卵サラダなど、水分量の少ないずっしり系のサラダでもおいしい一品になります。一組で満足できるので、コンパクトで持ち運びにも便利ですね。紙で包めば、食べた後にポイとゴミ箱に入れればよいし、蜜蝋ラップを使っても畳めばよいので、かさばらなくて便利です。お試しくださいね。

文: くらもとさちこ
写真撮影: Jan Oster 

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