Smørrebrød med torskerogn & grov remoulade

鱈の子スモーブロ & 自家製レムラードソース

木製プレート: Akiko Ken Made

ライ麦パンは、デンマークの人々にとって欠かせない食材です。日本の家庭ではお米が常備しているように、デンマークの家庭では、ライ麦パンが用意されています。自家製のライ麦パンを用意する家庭よりは、ベーカリーやスーパーでライ麦パンを調達する家庭の方が圧倒的に多いと思いますが、どの家庭でもライ麦パンが暮らしに密接しています。普段の日にもハレの日にも登場し、朝食、昼食、夕食、そして、おやつや虫養いに使える万能選手。栄養的にも文化的にも大黒柱のような役割を果たしています。

千年近くに渡って作られている伝統的なライ麦パンは、ライ麦・塩・水・サワー種というシンプルな組み合わせ。細挽きと粗挽きのライ麦による独特のツブツブした食感とライ麦そのものの旨味が楽しめます。最近は、亜麻の実やひまわりの種、カボチャの種がたっぷり入ったタイプが主流になっているように感じます。小麦粉が配合されたライ麦パンも見かけます。

ライ麦パンに何かをのせたもの、塗ったものは『◯◯ごはん』と呼ばれます。『ごはん』がライ麦パンを指しているのが面白いですね。食事系だと、鰊のマリネをのせた『鰊(ニシン)ごはん』、レバーパテを塗った『レバーパテごはん』、チーズをのせた『チーズごはん』、おやつ系でしたら、はちみつを塗った『はちみつごはん』、ジャムを塗った『ジャムごはん』など。『◯◯ごはん』と呼ばれるものは、概して、パンの上に一種類の素材をのせたシンプルな組み合わせを指します。パンで具を挟まない『オープンサンドイッチ』に属し、手で食べるタイプとフォークとナイフで切り分けながら食べるタイプがあります。手で食べるシンプルなものは少しお腹がすいたときや、スピーディーに食べなければいけないときに便利。フォークとナイフで切り分けながら食べるタイプで、メインの食材と脇役の食材が立体的に飾られているものは『スモーブロ』と呼ばれています。目でも楽しめるのでご馳走感が高く、一品にボリュームがあることが多いため食べ応えもあります。14歳の息子は、手で食べるタイプはおにぎり、スモーブロはお寿司みたいな位置付けだと言います。寿司屋のようにスモーブロ専門のレストランが点在しますし、スモーブロの仕出しやテイクアウト店もありますので、言い得て妙かもしれません。

ライ麦パンを使ったオープンサンドイッチは、ランチの定番です。パンの上に一種類の素材をのせたシンプルなものはお弁当として用意されることが多く、社員食堂などでは立体的に彩られたスモーブロが用意されたります。自分で組み立てるオープンサンドイッチは幼稚園などでの人気献立です。50年くらい前までは、昼食が温かい料理であることが一般的だったので、ライ麦パンベースの食事は夜の定番でした。今は、お昼時に家に戻って食事をする慣習が廃れ、夕食に温かい料理を食べる形が定着しています。しかし、食に関する調査では『家庭での夕飯献立』としてライ麦パンベースのごはんが温かい料理を抜いて第一位になるなど、ひと昔前の食習慣が今も各家庭に根付いているのは興味深い事象です。

和食は季節や旬を大切にした料理として世界的に知られていますが、ライ麦パンごはんにも季節や旬の楽しみがあります。『じゃがいもごはん』は時知らずの一品ですが、掘り立ての新じゃがで作る『じゃがいもごはん』は初夏の楽しみです。デンマークのライ麦パンと新じゃがをこよなく愛していた父は、生前、『じゃがいもごはん』を楽しみに6月のデンマーク渡航を楽しみにしていました。

春を迎える前の楽しみは、ランプフィッシュ・キャビアや鱈の子です。ランプフィッシュはカサゴの仲間で、その卵、ランプフィッシュ・キャビアは美しく透き通った珊瑚色です。一月下旬が走り、二月下旬あたりから約一ヶ月ほど旬を迎えます。その繊細な味と粒々の食感は越冬したじゃがいもとよく合います。誠文堂新光社刊『北欧料理大全』ではベイクドポテトと組み合わせていますが、著者カトリーネ・クリンケンさんの思い入れが伝わるレシピです。ライ麦パンごはんでランプフィッシュ・キャビアを楽しむときにも、茹でたじゃがいもとの組み合わせがお勧めです。春が遠くから近づいてきていることを感じる一品です。

鱈の子も春を待つ時期に楽しめる食材です。鱈は年中獲れる魚ですが、鱈の子は年が明けて春が来るまでがおいしいと言われています。デンマークには茹で鱈の子の缶詰が存在し、多くの家庭で常備されていると聞きますが、旬の時期に作るおいしさは格別。クッキングペーパーに生の鱈の子をそっと置き、塩とワインを少々ふりかけてからクッキングペーパーを閉じ、ローリエやハーブを加えた鍋でぐらぐらさせないように火を通します。火が通った鱈の子は数日ほど冷蔵庫で保存できるので、ここまで仕込んで置くと便利です。

鱈の子スモーブロには、茹でた鱈の子を1cm強の輪切りにしたものを使います。バター焼きかオイル焼きにしてから使うと、おいしさが増します。鱈の子にはレムラードソースを合わせます。デンマークのレムラードソースは、軽く茹でた野菜や野菜のピクルスをたっぷりのハーブとマヨネーズで和えたもので、マヨネーズの3倍くらいの野菜を使うことやターメリックを使うことなどに特徴があります。日本では、マヨネーズやケチャップが冷蔵庫に入っている家庭は多いかと思いますが、デンマークでは同じような感覚で市販のレムラードソースが冷蔵庫に常備されています。

レムラードソースは、鱈の子ソテーだけではなく、白身魚のフライ、ローストビーフ、そして、魚の『フリカデラ』などに合わせます。『フリカデラ』はデンマーク版のハンバーグを指しますが、魚のフリカデラは、合い挽き肉が魚のミンチに置き換えられたもので、ご本家の『フリカデラ』と並んで、デンマークで人気の高い家庭料理です。

レムラードソースは、いろいろな作り方がありますが、ここでは、日本の家庭にある食材で作れるレシピで、ピクルスを使わない方法をご案内します。市販のものは野菜の形がわからないくらいみじん切りになっていますが、私は野菜それぞれの味が楽しめるくらいの角切りで作ります。

「レムラードソース」という名前だと手作りが難しそうに聞こえますが、甘酸っぱい味の野菜のみじん切りをマヨネーズで和えればよいので、とても簡単です。ピクルスや野菜の甘酢漬けをお持ちの方は、ぜひ、それでお試しください。タルタルソースがお好きな方は、それでもおいしく召し上がっていただけると思います。ライ麦が75%以上のライ麦パンを入手することが難しい方は、ライ麦パン抜きで鱈の子のソテーとレムラードソースの組み合わせをお楽しみくださいね。

[補足]デンマーク風のライ麦パンは、「広島アンデルセン」およびその通販サイト「アンデルセンネット」で「ソフトカーネラグブロート」という名前で販売されています。アンデルセン・デンマーク店で人気の高いライ麦パンを再現なさっているそうです。


鱈の子スモーブロ&レムラードソース


材料

<茹で鱈の子>

  • 真鱈の子  2腹

  • 塩  適宜

  • 白ワインもしくは日本酒  適宜

  • ローリエ  一枚(省略可)

  • 胡椒(粒)  3〜4粒(省略可)

  • 野菜くず(玉ねぎやにんじんの皮など) 軽く1カップ

<レムラードソース>

  • 大根(5 mmの角切り)  50 g

  • にんじん(5 mmの角切り)  50 g

  • キャベツ[*1](5 mmの角切り)  100 g

  • 胡瓜[*1](5 mmの角切り)  80 g

  • きび砂糖  大さじ1〜1 ½

  • りんご酢[*2]  大さじ3

  • マヨネーズ[*3]  ½ カップ

  • カレー粉  小さじ1/8

  • ケッパー(粗みじんぎり)  大さじ1(省略可)

  • あさつき、ディル、小ねぎなどの香草  大さじ2

<鱈の子スモーブロ>

  • ライ麦パン(ライ麦が75%以上のもの)

  • バター

  • 茹で鱈の子(上記レシピ参照)

  • レムラードソース(上記レシピ参照)

  • 貝割れ大根など飾りの野菜


作り方

 <茹で鱈の子>

1. 鱈の子を包める大きさのクッキングペーパーに鱈の子をそっと置き、塩とワインを少々ふりかける。

2. 鱈の子をクッキングペーパーで包み、残りの材料とひたひたの水を加えた鍋を加熱し、ぐらぐらさせない程度の火加減で、鱈の子に火を通す。時間は鱈の子の大きさによるが、15〜20分が目安。

3. あら熱をとる。冷蔵で数日保存できる。

<レムラードソース>

1. 大根とにんじんのキャベツの角切り、砂糖、酢を鍋に入れ、2〜3分ほど蒸し煮にする。[*4]きゅうりを加えて、さらに1分、蒸し煮にする。歯触りがしっかり残る程度の硬さが望ましい。

2. 蒸し煮にした野菜をざるにあげて冷ます。

3. マヨネーズとカレー粉をよく混ぜ、野菜とケッパー、みじん切りもしくは小口切りにした香草を和える。

<鱈の子スモーブロ>

1. 茹で鱈の子を1 cm強の輪切りにし、薄皮を剥く。

2. フライパンにオリーブオイルもしくはバターを入れ、茹で鱈の子の両面に香ばしい色がつくまで焼く。粗熱をとる。

3. ライ麦パンにバターを塗る。

4. 鱈の子のオイル焼きもしくはバター焼きをライ麦パンに並べる。[*5]

5. レムラードソースをたっぷりかけ、その上に貝割れ大根を飾る。

 
NOTE:

*1 キャベツはカリフラワー、きゅうりはズッキーニでもおいしく作れます。

*2 りんご酢は米酢で代用できます。

*3 私は、無調整豆乳50cc、塩小さじ¼、低温圧搾の菜種油100cc、酢大さじ1で作る豆乳マヨネーズを使っています。

*4 葉の柔らかいキャベツは、2分くらい後に加えてください。

*5 鱈の子の下に蒸したキャベツやアボカドのスライスなどをおいてもおいしいですよ。


写真撮影: Jan Oster

<ご案内>
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プレート: Gurli Elbackgaard

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