Efterår og november

秋、そして11月

デンマークで暮らしていることをお話しすると、いろいろな質問をいただきます。その中でもダントツに多い質問は「デンマークには四季があるんですか?」

はい、あります。でもね、日本みたいに四季が等分ではないのです。

デンマークの四季を「春・夏・夏・秋・冬・冬・冬」と表した記事を目にしたことがありますが、まさにそんな感じ。春と秋は夏冬と比べて圧倒的に短い。そして、おひさまが雲や夜に隠れてしまうことが多い長い冬。

「春・夏・秋・クリスマス・冬」という分け方は料理本でよく使われます。ここでの「クリスマス」は12月24日から26日を指すのではなく、クリスマスを迎えるための準備期間「待降節」を含めた約一ヶ月を意味します。「待降節」はアドベントとも呼ばれ、クリスマスイヴの4つ前の日曜日から始まります。ちなみに、今年の第一アドベントは11月28日です。

デンマークの四季についてざっくりお話しすると、春は、4月下旬、森に生息する橅に若葉が芽吹く前、白く可憐なイチリンソウの花が橅の森で絨毯を敷いたように一面に咲く頃に始まります。その後、橅の若葉が透き通った萌葱色から力強い濃い緑に変わっていく二週間を加えた合計四週間がデンマークの春。(デンマークの春については、先の投稿「橅の森が春を迎える頃」と「一ヶ月足らずの春」でもご紹介しています。合わせてご覧くださいね。)

日本で暮らしていた頃は、4月は春でしかあり得ないという確定的な感覚がありましたが、北欧の冬は甘くない。デンマークは北欧の最南端に位置しますが、4月に大吹雪や雹(ひょう)に見舞われることは珍しくなく、防寒着も4月末まで決して仕舞わないのが不文律です。

最も美しい季節と崇められている夏は、一日中、明るさに満ち溢れ、外で気持ちよく過ごせる時間が圧倒的に長い。太陽の恵みをたっぷり感じる軽やかで華やかな季節。たいていは5月中旬以降にいきなり到来します。あれ、もう夏だ!という感じ。

涼やかで明るい夏は3ヶ月あまり続き、8月に晩夏を迎えた後、9月、10月と秋を楽しめます。春より少し長いですね。収穫の季節です。その昔、畑の収穫を家族全員で行っていたため、日本での田植え休みに相当する「じゃがいも休み」が10月半ばに制定されました。その後、大型農耕機の発達で収穫に人手がかからなくなりましたが、今も一週間の秋休みは健在です。

デンマークの秋は小雨や霧雨が多く、しっとりとしたお天気が多い。奈良の正倉院宝物展は、毎年、11月上旬に正倉院宝庫の宝物点検が行われる時期に合わせて行われるようですが、カラッとした気持ちのよい天候だから行える慣習なのだと改めて気候の違いを感じます。

紅葉は10月下旬から。森の赤や黄に染まった葉や木の実を集める作業は秋らしいヒュッゲです。葉っぱや木の実でリースを作ったり、オブジェとして部屋に飾ったりします。「ニッセ」と呼ばれる北欧独特の小人さんを作る慣習も昔から伝えられている手仕事です。秋の森や遊歩道を散歩するとポケットがいっぱいになりがちですが、何よりの楽しみは幾層にも積もった落ち葉の音を聞きながら歩くこと。雨の降り方などで葉の音も変わりますし、湿気の関係で朝の音、夕方の音などにも違いがあります。森や自然保護区域では、野生の鹿を見かけることも珍しくありません。今だに習得できていませんが、鹿を見かけたら、自然と一体化するように気持ちを鎮めて気配を潜めるようにと森で育った夫から習いました。

収穫が終わった畑では、春に収穫用の作物を育てるまでの間、肥沃な土壌を作るために種を撒く作業が復活しています。日照時間が少ないため作物としては育たないそうですが、よい土が育つのだそうです。秋色に染まった風景の中、収穫が終わった畑は青々としているので少し不思議に思える光景ですが、有機農耕やサスティナビリティへの考え方が浸透し、古来の智慧を取り入れた農業形態に繋がっていく形は興味深いですね。

11月は秋と冬の境を漂う月です。デンマークの現代詩人ヘンリック・ノアブランドは、11月の独特の存在感を次のように表現しています。

「一年は16月」

11月、12月、1月、2月、3月、4月。

5月、6月、7月、8月、9月。

10月、11月、11月、11月、11月。

クリスマスを待ち遠しく思う気持ちもあるせいか、秋を通り過ぎて冬に向かう季節だからなのか、11月は秋でもなく冬でもない少し特別な月なのです。

広葉樹が落葉し、すっかり秋が終わったような感覚になるのが11月初旬。気温は5°前後の日が多くなり、木枯らしが吹き、湿気を帯びた空気が漂う気候が続きます。一日の日照時間も8時間前後と短くなり、出勤・登校時や帰宅時がだんだん暗くなっていくのも11月の特徴です。

この時期からよく使うようになるのがキャンドル。最近は、キャンドルを燃やす時に発生する粒子が首都の渋滞時に最も交通量の多い場所で発生する害に相当するという調査結果なども発表され、電池式のキャンドルが浸透してきました。お洒落なカフェやレストランでも卓上用の間接照明や電池キャンドルが一般的になっているように思います。環境意識の高いお国柄の一面なのかもしれません。元々、間接照明が発達している文化があるせいか、キャンドルが空気を汚すなら、ほかの手段でキャンドルが醸し出す温もりや和らぎを楽しもうという意気込みが並々ではないのも面白いですね。

「待降節」の第一日曜日で幕開けすることが多いデンマークの冬は、5ヶ月近く続くのですが、クリスマスを前編、残りの数ヶ月を後編と分けることができます。この前編と後編の冬の違いを「灯りと喜びに満ち溢れた冬」と「暗くてジメジメした冬」と表現する人もいます。「暗くてジメジメした冬」と聞くとマイナスの印象が拭えませんが、幸いこの気候ならではの楽しみがたくさんあることも補足しておきますね。

「待降節」まであと少し。そろそろ「待降節」を迎えるお菓子の準備に入りたいと思います。これも11月の楽しみです。

 
 
 
 
 
 
 
 
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