Sankthansaften

夏至祭

6月23日は「聖ハンスの夜」です。キリストの洗礼者ヨハネを祝した『聖ヨハネの日』の前夜という意味で、冬至付近のクリスマス・イヴに対極する日が選ばれています。デンマークではヨハネはヨハネスと呼ばれ、その略称が「ハンス」なので、「聖ヨハネ」は「聖ハンス」になります。クリスマスのお祝いをクリスマス・イヴの夜に行うように、「聖ハンスの夜」は、夜に「夏至祭」が催されます。

デンマークは福音ルーテル派のキリスト教が国教なのですが、「聖ハンスの日」は約250年前に祝日から外されています。したがって、現在のデンマークの暦には「聖ハンス」が記載されていないのですが、「聖ハンスの夜」は記載されています。「聖ハンスの夜」に祝う「夏至祭」が文化として深く根付いていることを感じます。

「夏至祭」は北欧神話に繋がる民衆信仰から発祥した祝祭で、500年以上に渡って引き継がれています。大きな焚き火をたくのが特徴で、北欧独特の明るい夏の夜、全国各地の水辺で大勢の人が集まって数時間に渡って祝います。

デンマークでは、夏と冬の日照時間の差が顕著です。スウェーデン、ノルウェー、フィンランドが位置するスカンジナビア半島の北部や、さらに高緯度に位置するアイスランドのように「沈まない太陽」を見ることはできませんが、夏至の頃には夜11時を過ぎてもまだまだ明るく、深夜に一度、少し暗くなりますが、明朝3時すぎにはまた明るさが戻るのです。晴れた日には数時間に及ぶ美しい黄昏どきが楽しめます。屋外で夕ごはんをゆっくりと楽しみ、食事の後、黄昏どきをのんびりと散策するのは、デンマークの夏の風物詩。典型的な夏ヒュッゲのスタイルです。

夏を迎えることへの大きな喜びは、暗くて長い厳しい冬に所以するのかもしれません。冬の数ヶ月は学校や職場への往復が真っ暗で、雨も多くじめじめとしているため、一層、寒さを厳しく感じます。春めいてくると、何はさておき、日光浴や散歩で太陽の光を楽しむ習慣が生まれるのも頷けます。また、真夏でも20℃前後のことが多いため、天気のよい日には、何よりも太陽の恵みを存分に味わうことが優先されます。その優先順位の高さには驚くべきものがあり、デンマークでの暮らしが30年以上になった今も相変わらず唖然することがあります。

夏は太陽の恵みを象徴する季節。夏至には太陽の力が最も強くなるため、自然の偉大な力も夏至に最高潮に達すると言われてきました。古来、神秘的かつ超自然的なものと結びついていたようです。夏至の朝露には病気を治す力があるという言い伝えや、夏至の朝露が下りる前の時間帯に薬草を摘み、薬草としての活力を最大限に活かすという風習も残っています。また、癒しの力があると言われている湧き水も、夏至の空気に触れると、さらに特別な効力が宿ると信じられていました。その恩恵に預かるため、6月24日の「聖ハンスの日」から7月2日の「聖母の日」までの期間、病気の快癒を目的に聖なる湧き水を持つ泉まで巡礼し、効能が高くなっている湧き水を飲み、快癒を祈願した歴史もあります。そして、夏を象徴する花や葉で冠を作る習慣もあり、この冠を作ると一年間の健康が約束されると言われています。

さて、デンマークの「夏至祭」には、海岸や湖畔などの水辺に大きな焚き火が用意され、大人も子どもも明るい夜を楽しみます。学年末直前なので、夏休みを迎える開放感が加わります。夏至を皆で楽しく賑やかに過ごし、太陽の力を愛でることで災いを遠ざけ、幸運を呼ぶと伝えられています。また、焚き火には悪霊や災いを抹消して厳しい冬に備える意味を持っています。

最近の夏至祭は、夕方から、焚き火の近くで何かしらのイベントが催され、夜9時過ぎに焚き火を点火することが一般的です。焚き火には魔女の人形が飾ってあることが多いのですが、これは魔女が魔女の本拠地と言われるハルツ山地に戻すためと言われています。ここでの魔女は悪霊を具象化したもので、「魔女狩り」の意味は持っていません。

デンマークでは、大半の人々が讃美歌を始めとする数多くの歌曲に親しんでいます。冠婚葬祭はもちろん、人々が集まると一緒に歌を歌って楽しむ習慣が今も色濃く残っています。人々に長きに渡って愛されている歌は、「ホイスコーレ歌曲集」という名前で一冊の国民歌集としてまとめられており、定期的な改訂を加えながら世代を超えて引き継がれています。

焚き火に点火され、炎に勢いがついてくる頃、デンマークの美しい自然と国への熱い思いを謳った「夏至の歌」を合唱することも伝統的な慣習です。国を代表する愛唱歌の一つとして深く根付いているこの歌は、1885年版と1980年版の曲があることも特筆すべきでしょう。1885年版は、王立劇場で初演された美しい曲で長く親しまれていますが、1980年版はデンマークを代表するポップ・グループが作曲しているのですが、同じ歌詞なのに印象が大きく異なります。現在では1980年版も1885年版と並んで普及しており、国民歌集にも双方が選出されています。それぞれの歌を聴き比べていただけるようにリンクを貼っておきます。お楽しみくださいね。

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