Fastelavnsboller

春を呼ぶパン菓子『ファステラウン・ボーラ』

デンマークの春を呼ぶお祭り「ファステラウン」は、復活祭の日曜日から7週間前の日曜日に行われます。今年の「ファステラウン」は、2月19日でした。一月下旬になると、パティスリーやベーカリーでは、「ファステラウン・ボーラ」と呼ばれる「ファステラウン」にちなんだパン菓子が店頭に並び始めます。春を呼ぶお祭りにふさわしいデンマークの季節菓子です。

キリスト教では、復活祭までの40日間、イエス・キリストの喪に服すことを目的として、粗食や節制が行われてきました。その前に、盛大に騒いで贅沢をしようじゃないか、と言うのが、キリスト教国で見られる「カーニバル」と呼ばれるお祭りです。そして、そのカーニバルにつながる形として、デンマークでは「ファステラウン」というお祭りが存在します。

プロテスタント派の福音ルーテル派が国教のデンマークでは、粗食や節制を行う40日間の慣習は影を潜めていますが、「ファステラウン」というお祭りや、このお祭りにちなんだお菓子「ファステラウン・ボーラ」は、今も尚、受け継がれています。まだまだ冬が続く最中、クリスマスと復活祭の間に位置することもあり、季節の行事として、多くの人が楽しみにしています。実際の春の到来とは少し異なりますが、復活祭は春の象徴として扱われており、ファステラウンはその春を呼ぶお祭りなのです。

昔から家庭でも作り続けられているタイプは、リッチなパン生地で作ります。パン生地だけのプレーンのものも存在しますが、ジャムやカスタードクリームや砂糖入りのヘーゼルナッツやアーモンドのペーストなどを入れて焼き、焼いた後にアイシングや溶かしたチョコレートで飾ったタイプが、大抵の人が思い浮かべる「ファステラウン・ボーラ」です。基本のタイプなので「昔ながらのファステラウン・ボーラ」とも呼ばれています。

これに対し、パティスリーやベーカリーでは、もっとケーキに近い仕上がりのものが主流です。まず、基本のデニッシュ生地に砂糖を30%くらい含むアーモンドペーストを練り込んだ生地をシュークリームより一回り大きく焼きます。粗熱がとれたら、上下を半分に切って、ベリーのジャムと「クリーム・ディプロマット」で飾ります。ファステラウンの文化背景は、こちらでご案内していますが、しっとりとした仕上がりのデニッシュ生地も、ふんわりと泡立てた生クリームを混ぜ合わせたカスタードクリーム「クリーム・ディプロマット」も、極めて濃厚でリッチな味わいで、粗食や節制の期間に入る前の贅沢を表現しています。

このタイプでは、コペンハーゲンの老舗パティスリー「La Glace」(ラ・グラース)のものがお手本のような存在のように思えます。アーモンド風味のデニッシュ生地といい、中のクリームとジャムのバランスといい、申し分のない仕上がりです。Hahnemann Køkken(ハーネマン・キッチン)のシンプルな組み合わせも素材のよさが楽しめます。数年前からは革新的な「ファステラウン・ボーラ」が加わり、グルメ志向の強いコペンハーゲンっ子の垂涎の的になりました。先駆的なポジションを築いたのは、日本から上陸している「アンデルセン・ベーカリー」。デンマークの伝統に日本の精密さが加わった独創的な「ファステラウン・ボーラ」は、その美しい姿と他に類を見ない種類の多さで、コペンハーゲンっ子を魅了しています。コロナ感染規制防止対策措置が敷かれていた一昨年には、大手新聞社の記事にも取り上げられるほど、長蛇の列が毎日続き、話題になりました。パン屋とスーパーくらいしか開いていない環境で、その美しい姿と今まで存在しなかった味の組み合わせは、人々の心を鷲掴みにしたようです。今年も、再び、大手新聞社で最高評を取得し、独自のポジションと新しいスタンダードを築いています。

今回の記事でご紹介するのは、おばあちゃんが用意してくれるような「昔ながらのファステラウン・ボーラ」です。バターが入ったリッチなパン生地に、ナッツと砂糖を合わせたクリームとカスタードクリームを加えて包んでいます。ご自分がお好きなカスタードクリームをお使いくださってもよいですし、カスタードやジャム単体だけ包んでもおいしいです。ぜひお試しください。

註)Fastelavnsbollerは、ファステラウンの小さなパンという意味です。bollerは発音に忠実に表記すると「ボラー」と表記するべきなのですが、耳に触りがよいと感じるため「ボーラ」という表記にしています。


『ファステラウン・ボーラ』


材料

<パン生地・12個分>

  • パン用強力粉もしくは地粉(中力粉)[1]250 g

  • 生イースト 2.5 g (もしくは、ドライ・イースト1.2 g)[2]

  • 砂糖[3] 25 g (きび砂糖を使っています。)

  • ミルク[4] 125 g (オーツミルクを使っています。)

  • 卵 1 個

  • 塩 2.5 g

  • カルダモン[5]小さじ1

  • 無塩バター 40 g

<バニラ風味のカスタードクリーム>

  • バニラ棒 1/2本分

  • 砂糖[3] 小さじ1

  • 卵黄 2個分

  • コーンスターチ 15 g

  • 砂糖[3] 15 g

  • ミルク[4] 100 g

<ヘーゼルナッツ・ペースト>

  • ヘーゼルナッツ[6] 50 g

  • 砂糖[3] 50 g

<トッピング>

  • ビターチョコレート

  • 粗く砕いたヘーゼルナッツヘーゼルナッツ 50 g


作り方

<カスタードクリーム> ✴︎ 前日に仕込んで冷蔵保存すると便利です。

  1. バニラ棒を縦に割り、バニラビーンズを鞘から出しておく。

  2. バニラビーンズがダマになることを避けるため、砂糖(小さじ1)とまんべんなく混ぜておく。

  3. 卵黄、コーンスターチ、砂糖をボウルに入れて、よく混ぜる。

  4. ミルクとバニラ棒、砂糖を小鍋に入れ、沸騰直前まで温める。

  5. 絶えず泡立て器でかき混ぜながら、卵黄が入っているボウルに沸騰直前のミルクを加える。

  6. 合わせた材料を鍋に戻し、クリーム状になるまで、絶えずかき混ぜながら、数分ほど煮る。

  7. クリームをボウルに入れ、クリームの表面にラップがぴったりつくように覆う。(この作業で、クリームに膜が張るのを避けます。)

  8. ボウルを冷蔵庫に入れて保存する。

<ヘーゼルナッツ・ペースト>

  1. ヘーゼルナッツを水に浸し、室温で2、3時間、もしくは、一晩、置いておく。

  2. ナッツをざるに上げてよく水気を切り、砂糖を加えてフードプロセッサーやミルサーでペースト状にする。ナッツから油分がでるまで攪拌するとよい。途中で、側面のよく混ざっていない部分をこそげ、ペーストが均一になるように試みる。粗熱をとる。

<パン生地>

  1. 粉とカルダモンをボウルに入れ、イーストを加えて、そぼろ状にする。(ドライイーストの場合、全体をよく混ぜる。)

  2. 砂糖、ミルク、卵、塩を加え、スケッパーで全体をよく混ぜる。

  3. ボウルをふきんで覆って、30分ほど休ませる。バターは薄くスライスし、冷蔵庫で冷たくしておく。

  4. スケッパーで生地を底から中央に折り畳むように全体を混ぜる、という作業を繰り返す。普通のパンのように練ってもよいし、スケッパーで生地を底から中央に折り畳むように混ぜ続けてもよい。

  5. 生地がなめらかになったら、バターを一枚ずつ加えながら、生地に混ぜ込んでいき、もう一度、生地がなめらかになるまで、ボールの中で生地を中央に折り畳むような作業を繰り返す。

  6. 生地がなめらかになったら、ボウルをふきんで覆って、数時間、倍くらいの大きさになるまで室温で発酵させる。冷蔵庫に入れて、翌日まで発酵させてもよい。

  7. 薄く粉をはたいた調理台に発酵させたパン生地を移し、3-5厚の四角形に形を整える。

  8. 10 x 10 cm平方になるように生地を分割する。

  9. 生地の中央に、小さじ2ほどのヘーゼルナッツペーストを塗り、その上に、小さじ2ほどのバニラ・クリームをのせる。それぞれの辺が中央に集まるように生地を留め、つなぎ目を下にして、クッキングシートを敷いた天板に並べる。

  10. 天板を大きなシャワーキャップのようなもので包み、35度もしくは室温で、もう一度、ふんわりとふくらむまで発酵させる。 

  11. 210度に予熱したオーブンに発酵したパンが並んでいる天板を入れ、13〜15分ほど、きつね色になるまで焼く。

  12. オーブンから天板を取り出し、クーラーの上にパンを置いて、粗熱をとる。

<トッピング>

  1. オーブンの余熱で、ヘーゼルナッツを軽くローストし、粗く刻んでおく。

  2. 刻んだチョコレート100 gを50〜60℃の湯煎で溶かし、常温まで冷めたパンにトッピングする。湯煎で溶かしたチョコレートに人肌程度に温めたミルクを大さじ1ほど加えて、ガナッシュのようなチョコレートクリームを作って塗ってもよい。

  3. チョコレートが固まっていないうちにヘーゼルナッツを飾る。

註)

[1]スペルト小麦を使っています。

[2]パン生地に加えるイースト量は、一般的な量より少ないと思います。私は、粉の風味を感じる仕上がりが好きなので、イーストの量は粉の1%以下を使いますが、お好みで増やしてくださいね。基本的には、リッチなパン生地でしたら、どんな生地でも使えます。

[3]きび砂糖を使っています。

[4]オーツミルクを使っています。

[5]バターやミルクが入った柔らかな食感のパンにカルダモン風味が加わると、特別感の高いお祝いパンになります。

[6]アーモンドやくるみでも代用できます。


文・レシピ: くらもとさちこ
写真撮影: Jan Oster

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