Fastelavn

春呼び祭り「ファステラウン」

2月は、春がとても恋しい季節です。「とても」を太字で書きたいくらい待ち遠しい。

日本では梅や桃が咲く頃だと思いますが、デンマークでは、ミラベルと呼ばれる梅の仲間が咲くのが4月。春までの道のりは長いのです。

デンマークの春告花は、黄花節分草(キバナセツブンソウ)です。硬い土から健気に出てきた、小さくて、まんまるの黄色の蕾は、遠くからの春のお告げです。

この花は庭や公園や遊歩道などで群生し、お天気のよい日には、一斉に蕾を開きます。硬い地面に貼りつくように小さな黄色い花が咲くのですが、群生しているため、遠目からは地面が輝いているように見えます。春の喜びを体現しているような花です。

黄花節分草が咲き始めると、待雪草(スノードロップ)も芽を出し始めます。ころころと笑うように咲き、小さなお日さまのような印象を受ける黄花節分草に比べ、待雪草はひっそりと静かで美しいお月さまの風情があります。待雪草には素敵なおはなしがあり、こちらでご紹介しています。合わせてご高覧くださいね。黄花節分草も待雪草も、4月下旬以降にやってくる本格的な春までの、長い序章の最初を飾る存在です。

さて、デンマークには「ファステラウン」というお祭りがあります。十字架にかけられて亡くなったイエス・キリストが三日目に復活したことを記念する期間を「復活祭」や「イースター」と呼んでいますが、「ファステラウン」は、この「復活祭」に連動した行事です。

「復活祭の日曜日」は「春分の後すぐにやってくる満月の後で迎える最初の日曜日」と制定されており、デンマークでは、「復活祭の日曜日」と翌日の月曜日が祝日です。そして、「ファステラウンの日曜日」は、復活祭の日曜日から7週間前の日曜日に行われます。この日曜日も毎年、日付が変わるのですが、2月1日から3月7日までの間に収まるようになっています。今年は2月19日でした。

キリスト教文化圏では、復活祭までの40日間、イエス・キリストの喪に服すことを目的として、粗食や節制が行われてきました。その前に、盛大に騒いで贅沢をしようじゃないか、と趣旨で行われてきたのが、各国で伝わる「カーニバル」のお祭りです。そして、そのカーニバルにつながる形として、デンマークでは「ファステラウン」というお祭りが存在します。

プロテスタント派の宗派を国教とするデンマークでは、喪に服した粗食と節制のしきたりを一般的な生活で感じることありません。「ファステラウン」も、宗教色を感じることはほとんどなく、伝統文化行事として存在しているように感じます。

「ファステラウン」は、クリスマスと復活祭の間に位置し、冬が半分過ぎた日「kyndelmisse」(キュネルミッセ)の後に行われるので、春を呼ぶお祭りとしての意味合いもあります。北欧で太古から継承されている冬至に祝う光のお祭りがクリスマスのお祝いに結びついた形と似ていますね。

息子が通っているシュタイナー教育機関では、「ファステラウン」のお祝いには、枯れ木に薄紙で作った花や鈴が施した飾りを用意します。その飾りをゆすると鈴の音が鳴るので、それで春を呼ぶのだと教えてもらいました。素敵な慣わしですね。

「ファステラウン」のお祭りでは、仮装をした子どもが会場に集まり、そこに用意された木樽を順に叩く行事がメイン・イベントです。昔、樽の中に悪魔の化身とされる黒猫を入れていた地域もあるため、黒猫は「ファステラウン」を象徴するモチーフととして、今も使われています。

子どもたちが期待に胸を膨らませて列を作り、順々に棒で叩く様子は、どこか日本の夏の風物詩「スイカ割り」と似ているように思います。このお祭りは、学校や教会、集会所、文化施設など、いろいろなところで行われるため、ハシゴをして楽しむ子どももいます。

樽割りでは、樽が壊れるまで、順に樽を叩きます。樽の中に入っているものは、個装や袋装の駄菓子が定番。息子が小さな頃に参加した国立博物館でのイベントでは、みかんと食べきりサイズの量が小さな箱に入ったレーズンというかなり健康志向の強い内容で驚いたこともあります。樽の底が抜けて、中に入っているものが落ちたら「猫の女王様」、樽が繋がれた紐に最後までひっかかっていた樽のかけらが落ちると「猫の王様」と呼ばれ、特別賞がもらえます。

今年は、先にご紹介したコミュニティ「キックアン」でも「ファステラウン」のお祭りが催されました。幼児、子ども、大人というカテゴリーに分かれた樽叩きが行われ、幼児には厚紙で作られた樽、子ども向けには小さめの木樽、大人向けには頑丈な木樽が用意されていました。張り切り過ぎて、木樽があたってしまい、擦りむいてしまった子どももいましたが、家族でそれぞれに楽しんでいる様子は微笑ましい光景でした。

 「ファステラウン」をご紹介する上で忘れてはならない存在は、「ファステラウン・ボーラ」です。デンマーク語の発音では「ボラー」と表記するべきなのですが、耳に触りがよいと感じるため、「ボーラ」という表記にしています。別記事でご案内したいと思います。どうぞ、お楽しみに。

今年の連載を予定している文化施設チボリと少年少女音楽隊チボリガードのおはなしは、3月の記事から再開します。こちらも合わせてお楽しみに。

文: くらもとさちこ
写真撮影: Jan Oster

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