Tivoli & Tivoli-Garden II

文化施設チボリと少年少女音楽隊チボリガードのおはなし(2)

デンマーク文化の結晶とも言える総合文化施設チボリは、例年、3月下旬あたり、復活祭の休暇に入る直前の金曜日に開園します。

キリストの復活を祝う復活祭は「春分の日の後の最初の満月の次の日曜日」と決められています。毎年決まった日ではない「移動祝日」に属します。今年2023 年の復活祭は4月9日でした。復活祭関連の祝日は、復活祭の一週間前に設定されている「しゅろの日曜日」から復活祭の前日までの「聖週間」、そして「復活祭」と復活祭の翌日に迎える「復活祭の月曜日」が8日間連携した祝日で、一般的には「復活祭の休暇」と総称されています。

デンマークでの復活祭の休暇は、宗教的な意味合いが薄らぎ、厳しい冬が過ぎて再び春が巡ってきたことを喜び合う期間のように感じます。

今年の復活祭の休暇は、4月2日(日)から4月9日(月)でした。そして、チボリは3月31日(金)に「チボリでの復活祭」[Påske i Tivoli]として開園しました。「チボリでの復活祭」は「チボリでの夏」[Sommer i Tivoli]に続くため、実質的には、夏半期の開園が復活祭の前に始まることになります。

北欧では、春のお姫さまが光あふれる陽気にのって春を連れてくると言われますが、チボリの美しい庭園には、春のお姫さまが一番乗りするところなのかもしれません。春とは名ばかりの気候で、雪や霰に見舞われることもあるくらいなのですが、チボリの庭には美しい春の球根花が用意され、春の到来を一足先に楽しみたい人々で賑わいます。

デンマーク王国近衛兵をお手本にした祝賀装束を装ったチボリガードによる定例パレードや定例コンサートは、夏半期の4月から9月の毎週末に繰り広げられ、来訪者は、園内に響き渡る音楽とお伽の国から抜け出したような姿を楽しむことができます。

チボリ開園の初日には、チボリガードによるパレードがコペンハーゲンの目抜き通りストロイエで行われます。以前の記事でもご紹介していますが、チボリの開園を告げると同時に、春の到来をコペンハーゲン市民と分かち合う意味合いを持つ、喜びに溢れた行事です。

クリスマス開園が幕を閉じてから春の開園までの3ヶ月間、チボリガードの公演はありません。しかし、この期間が休みというわけではなく、4月から9月までの半年に渡る毎週の公演に向けた練習を積んでいます。

チボリガードでの年間演奏曲数は、およそ150曲。音楽演奏は、入隊まもない年少者20名で編成される鼓笛隊とオーケストラ編成の吹奏楽隊が担当します。吹奏楽隊は定席54名による大所帯で、チボリガードのメンバーの過半数がこの部隊に所属しています。

鼓笛隊は、年間で30曲を暗譜で演奏します。吹奏楽隊で演奏する曲は年間120曲に及ぶので、小さな楽譜を楽器か制服につけて演奏しています。夏季半年で演奏されるのは約100曲ですが、毎年全く同じ内容ではなく、1000曲以上の持ち曲から、その年の編成のバランスなどを考慮した組み合わせとなっています。この点は、チボリガードの演奏の大きな特徴と言えるでしょう。聴く方にとっては楽しみですが、演奏する方にとっては、楽しいばかりではなく厳しくもある課題です。クラッシック音楽だけではなく、映画音楽やポップス、ジャズなど、さまざまなジャンルの音楽をオーケストラ編成で演奏しています。

定例パレードだけではなく、年間10回以上に及ぶ30分の定例コンサート、1626席を持つチボリ・コンサートホールで行われる年3回のコンサートで演奏する曲の大半は、春開園の前、1月から3月までの期間にかなりのレベルまで仕上げていきます。毎週3回、二時間ずつの合奏練習と自宅での個人練習を積み重ねて、年間120曲以上を弾きこなしている形です。

「チボリでの復活祭」のオープニング祝賀演奏は、TGバンドと呼ばれるチボリガード吹奏楽隊の少人数編成隊8名が演奏を担当します。デンマーク国旗を持って待ち受けているスタッフ一同がプロムナードに並んで入園者を迎えるのは、クリスマス開園と同じ慣習です。

同日の午後には、チボリガード総勢93名がコペンハーゲンの目抜き通り、ストロイエを演奏行進して通り抜け、チボリの春開園を告知します。国旗にちなみ、デンマークでは赤と白が祝賀を意味するのですが、華やかな祝賀装束を身に纏った楽隊が、伝統的な通りを演奏しながら行進すると、大勢の観衆が集います。道路の脇で見学する人もいれば、パレードの後ろをチボリガードと一緒に行進する人も数多く、その様子は壮観です。

チボリガードには、音楽演奏を担当する鼓笛隊と吹奏楽隊とは別に「鉄砲隊」が存在します。チボリ創設の一年後に創設されたチボリガードの歴史をそのまま体現する部隊で、1800年代後半に陸軍で実際に使われていた鉄砲を片手にパレードや鉄砲パフォーマンスを行う部隊です。

鉄砲隊のリーダーは「大佐」と呼ばれ、パレードの責任を担い、殿(しんがり)を務めます。大佐がパレード開始の号令をかけ、その号令で、先頭の「鼓手長(こしゅちょう)」が100年以上の歴史を持つ鼓手杖でパレードを指揮します。パレードの進行方向や曲の始まりや終わりなどの指示は、鼓手杖の振り方が合図になります。曲の終わりは、鼓手長の合図を見ながら、鼓笛隊のピッコロ奏者が全体に号令をかけています。

ストロイエ・パレードの終盤、1890年築の立派な煉瓦造りのチボリ正門をチボリガード総勢93名が通り抜けるときに演奏する曲は、クリフ・リチャードの「コングラッチュレーションズ」。お祝いごとがあるときにチボリガードが演奏する十八番です。この曲を演奏しながらプロムナードを通り抜けて、「兵舎」と呼ばれるチボリガードの拠点となっている館に戻ります。ストロイエ・パレードは、春開園の初日とクリスマス開園の初日に行われる他、チボリとチボリガードの創立記念日に行われる年3回の大きなイベントです。

春の開園から9月末の閉園までの半年間、チボリガードは、ほぼ毎週末、土日各2回のパレードを行います。デンマークの労働基準法に従い、7月には3週間の夏休みが用意されていますが、4月から6月中旬まで、そして、8月中旬から9月下旬までは、平日は学校生活と月曜日と水曜日の合奏、週末は定例公演と休みのない日が続きます。かなりハードですが、カッコいい制服と演奏姿に憧れて入隊した子どもたちが、いつしか音楽を仲間と演奏する楽しさに取り憑かれ、16歳になる年まで続けるという形が定例で、そのまま音楽の道に進むメンバーも少なくありません。

今年の4月には、デンマークを代表する木管五重奏団「カール・ニールセン・クインテット」が日本に渡航し、デンマーク王国大使館東海大学広島アンデルセン親善公演を行い、デンマークを代表する作曲家カール・ニールセンの美しい曲を演奏しました。このクインテットも、チボリガード出身者で結成された由来を持ち、現在のメンバーも5名のうち4名がチボリガード出身者です。ちなみに、デンマーク国内で打楽器と管楽器を演奏するプロの音楽家の1/4がチボリガード出身者が占めています。

カール・ニールセン・クインテットは、北欧で定評のある交響楽団で首席奏者として活躍しているメンバーで構成されていることが特徴です。一流のプロとして活躍する音楽家にとって、チボリガードでの日々は音楽の道の入り口に過ぎないはずですが、合奏や練習への姿勢、集中力などの基本は、チボリガードで学んだことだと口を揃えて語っていました。

4月から始まった毎週末の公演ですが、6月、7月、8月と大きな催しが待ち構えています。夏は、チボリガードのメンバーにとって楽しさと忙しさが重なる季節です。

文: くらもとさちこ
写真撮影: Jan Oster

Previous
Previous

Når syrenen er sprunget ud

Next
Next

Fastelavn