Juleåbning i Tivoli

チボリのクリスマス開園

アドベントは、クリスマスイブから4回遡った日曜日から始まる約一ヶ月に渡るクリスマスを迎える準備期間です。

デンマークを代表する文化施設チボリでは、アドベントの第一日曜日の一つ前の週末からクリスマス開園が始まります。

チボリは、日本に黒船が到来した1853年から遡ること10年、1843年にデンマークの首都コペンハーゲンに創設された文化施設です。来年で180年を迎えます。ヨーロッパの19世紀に花開いた庭園文化を色濃く残している庭園として、ヨーロッパで唯一残存する美しい庭には、コペンハーゲンが城塞都市だった頃に由来する水堀が活用されています。歴史ある文化施設としてばかりではなく、先端文化を発信するスポットとしての地位を、時代に合わせて形を変えながら、創設当時から今に至るまで、その文化的地位を保持している点は、世界に類を見ないと評されています。「伝統と革新」はチボリを象徴するキーワードす。

丁寧に手入れが施された数えきれないほどの多彩な花、美しく飾られた照明、音楽や芝居やバレエなどのエンターテイメント、そして、飲食と遊園地施設が楽しめる総合文化施設チボリは、幅広い年代にさまざまな形で愛されていることにも特徴があります。乳母車にのって家族や親族と一緒に訪れた日から、杖を片手に散歩をゆっくりと楽しむ日々まで、人生のさまざまなシーンがチボリという空間で彩られる人が多いのです。

チボリには、創設当時から、「花」と「灯り」というテーマのほかに「音楽」というテーマがあります。創設当時、Sportify はもちろん、レコードもラジオも映画もなかった頃、音楽の生演奏は画期的な娯楽でした。その頃にも人気を博していたジェットコースターやメリーゴーランドなども、音楽には匹敵しなかったと言われています。音楽、特に、当時流行ったワルツなど踊ることができる音楽は、人々を圧倒的に魅了しました。その音楽をチボリでは毎日楽しむことができたのです。また、この素晴らしい音楽文化を上流階級だけに留めず、あらゆる階層の老若男女が楽しめるというコンセプトで創設当初から導入している点でも目を見張る思いがします。

チボリは、デンマークを代表する作曲家ロンビを初代音楽監督とし、ロンビの交響楽団として活躍してきたオーケストラは、現在も「チボリ・コペンハーゲン・フィル」という名称で幅広く活躍、デンマークで2番目の規模を持つ「チボリ・コンサートホール」で上演されるバレエやコンサートでの演奏も担当しています。

チボリには、もう一つ、音楽隊が存在します。創設一年目のお祝いとして誕生した少年衛兵チボリガードです。チボリの衛兵さんという意味を持つチボリガードは、当初、チボリ正門や園内の施設の入口などに衛兵として立つ役割を担っていましたが、その後、鼓笛隊として太鼓や笛を演奏する少年音楽隊となり、金管楽器や木管楽器が加わって吹奏楽隊が誕生しました。

デンマーク王室近衛兵をお手本にしているチボリガードでは、本物の熊の毛皮で作られた象徴的な帽子や上等なウールで仕立てられている赤のジャケットなどの制服はもちろん、団旗も王室の御紋がアレンジされた意匠となっており、パレードでのしきたりなども細部に至るまで近衛兵をお手本にしています。

チボリガードでは、2015年から女子の入隊を受け入れているのですが、これもデンマーク王室近衛兵で女子採用が認められたことが理由になっており、女王陛下に許可をいただいた上で女子の受け入れを開始したという逸話が残っています。

2024年に180周年を迎えるチボリガードは世界最古の少年少女音楽隊です。現在、8歳から16歳までの子どもが鉄砲隊、鼓笛隊、吹奏楽隊の3部隊のいずれかに所属して活動を行なっています。公演を中心にした活動が知られていますが、実際の形態は、デンマークで最高レベルを誇る音楽学校です。7歳から入学でき、一年間、年相応の音楽レッスンとマーチングのレッスンを受けた後、8歳から制服を着用し公演に参加するのが通常のパターンです。最初の数年を鼓笛隊メンバーとして演奏し、11歳頃から吹奏楽隊に入隊します。鼓笛隊の合奏練習は週に2度ですが、吹奏楽隊では週に3度、一回の練習時間も長く、演奏曲も年間20曲の暗譜演奏から140曲くらいの難易度の高い曲に移行します。鉄砲隊では、19世紀後期にデンマーク王国陸軍で使われていた本物の鉄砲を使っています。空砲は打てますが、鉄砲玉を詰める部分は封印され、特別行事に花吹雪を出すことができる仕掛けになっています。この鉄砲は旧式で重いので、11歳くらいで、ようやく片手に持った状態での30分のパレードが可能になるのだとか。ちなみに、鉄砲を含めると、細部まで美しい意匠が施された制服は、熊の帽子を含めて11キロ以上になります。

チボリガードでの一年は、10月に始まり、9月に終わります。これは、1843年の創設から1993年までの150年間、チボリが4月から9月までの半年のみ開園する夏を楽しむ文化施設だったことに由来し、「チボリ暦」と呼ばれています。たいていの教育機関は8月中旬に新学年が始まりますが、チボリでは、夏季開園の最終日が学年末。10月から新編成での活動を始めます。

新編成での公演の皮切りは、活動開始から一ヶ月半後にあたるクリスマス開園です。チボリのクリスマス開園は、鼓笛隊の演奏の後、11時に正門が開き、デンマーク国旗を持って待ち受けているスタッフ一同がプロムナードに並んで入園者を迎えます。

現在の鼓笛隊は、鼓手長、マーチ太鼓、大太鼓、ピッコロという構成です。8歳から11歳の子ども20名が定員で、鼓手長には今季がチボリガード最後の年となるメンバーが務めます。クリスマス開園の記念演奏では、入隊2年目の子どもたちが、新任の鼓手長の先導でパレード演奏を行います。今年のクリスマス開園時には、初雪がちらつき、クリスマスらしい風情でした。

同日の午後には、チボリガード総勢93名がコペンハーゲンの目抜き通りを演奏行進して通り抜け、チボリのクリスマス開園を告知します。新編成による初めての総勢公演です、鼓手長を先頭に指揮者、吹奏楽隊、鼓笛隊、鉄砲隊の順で編成を組み、しんがりを務めるのが鉄砲隊長でもある大佐です。華やかな衣装を纏った楽隊がクリスマスの飾りつけが美しい通りを演奏しながら行進すると、大勢の観衆が集います。道路の脇で見学する人もいれば、パレードの後ろをチボリガードと一緒に行進する人も数多く、その様子は壮観です。

1890年築の立派な煉瓦造りのチボリ正門を通り抜けるときに演奏する曲は、チボリの誕生日の祝賀パレードでも演奏したクリフ・リチャードの「コングラッチュレーションズ」。今回は、チボリのクリスマス開園を祝した演奏です。

すっかり暗くなる夕方5時には、チボリ園内の広場に飾られた大きなクリスマスツリーに灯りが灯され、チボリでのクリスマスが本格的に幕開けします。

文: くらもとさちこ
写真撮影: Jan Oster

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