Fællesskabet Kigkurren

コミュニティ・キックアン

北欧デンマークの人口は、600万人弱。首都コペンハーゲン市の人口は約80万人、都市圏全体では約130万人なので、総人口の1/5が首都圏で暮らしていることになります。

コペンハーゲンは、12世紀から700年余りに渡り、城壁に囲まれた都市でした。この城壁内の区域が『旧市街』になります。19世紀半ばにペストが流行し、度重なる火事と隣国からの襲撃などにも見舞われたため、城壁に沿って造設されていた堀を取り壊し、街を拡大することになりました。そして、当時、城壁の東西南北に用意されていた4つの門、東門、西門、北門、アマー門を基軸に住宅街が広がっていきました。現在、これらの地区は、ウスタブロ(東区)、ヴェスタブロ(西区)ノアブロ(北区)、アマーブロ(アマー区)と呼ばれています。東、西、北にあった門は方角が名称になっていますが、南門は、アマーという名前の島に続く道に用意された門だったため、アマー門と名付けられ、この門から広がる地区もアマー区と呼ばれています。

アマー区に続く幹線道路にはラングブロという橋がかかっています。この橋をアマー島へ向かって渡るとき、進行方向右側に見える住宅区域はイースランス・ブリュッゲです。19世紀の終わりに、船と鉄道が効率よく利用できる波止場の役割を持つ地区として埋め立てによって生まれた区域です。20世紀初頭から小規模の住宅街を形成しますが、船での輸送が必要な工場が立ち並ぶ区域と、陸軍の練兵場に使われていた広大な敷地に囲まれていたため、コペンハーゲン旧市街から徒歩15分の位置にありながら、長い間、陸の孤島のような存在でした。2000年以降、売却された陸軍の敷地に振興住宅やオフィス群が建てられ、運河沿いの工場に使われていた建物が再開発されました。現在、1900年代初期の建物と再開発の対象となった建物、現代的な建物が融合した独特の雰囲気を持つ地区となっています。 

この地区は、川のように見える運河に沿って長く広がる海浜公園がランドマークです。かつて、鉄道で運ばれた積荷置き場だった場所が、運河沿いの景観を活かした公園として生まれ変わり、多くの人々が足繁く通う、憩いのスペースになっています。この公園は、イースランス・ブリュッゲの住民だった建築家の設計と指導によって、80年代にそれまでに存在しなかった公園を住民が結束して作り始めた歴史があります。自治体との度重なる対話を介して、2008年に今の形に整いました。2.8ヘクタールを所有する公園で、運河の上に浮かぶスイミングプールがあることでも知られています。現在、コペンハーゲンでは、運河沿いで、水と戯れたり、日光浴をして過ごすことが夏の楽しみの定番となっていますが、この文化の先駆け的な役割を果たしたのが、イースランス・ブリュッゲ海浜公園です。住民を代表する組織との協働で、住民の声を色濃く反映し、住民の先導によって行われた地区開発の成功事例として紹介されることが多く、美しいオブジェのようなプール付近には、国外からの建築家や地方自治体の関係者が頻繁に視察を行っています。

この海浜公園から5分くらい歩いたところにキックアン(Kigkurren)と呼ばれる広場があります。現在、駐車場のように使われている広場ですが、コペンハーゲン市の緑化プロジェクトに組み込まれており、数年後には緑豊かな憩いの広場になる予定です。この広場に隣接したところに、同じくコペンハーゲン市が所有する1300平米の敷地があります。

現在、この敷地は使用目的が決まっていないのですが、一年半前に「コミュニティ・キックアン」という市民団体が設立され、市民が分け隔てなく集い、豊かなひとときが過ごせるスペースの共有を目的とした活動が始まっています。

殺風景なスペースに作業用の小屋を建て、土地をならす作業が始まりました。さまざまなところから小屋やベンチセットなどが集まり、EUの環境汚染に関する学術研究に使われたドームも、研究対象の多種類の植物とともに譲渡されました。荒れ果てて痩せていた土地が、「コミュニティ・キックアン」の目的に賛同する住民の奉仕活動で、さまざまな花が爛漫に咲くスペースに生まれ変わったのです。

「コミュニティ・キックアン」の活動には二つの目的があります。一つは、生物の多様性「バイオダイバーシティー」に基づいた敷地利用で、地球と人に優しい環境づくりに貢献すること、もう一つは、コミュニティづくりへの貢献です。

「バイオダイバーシティー」は、地球上のさまざまな環境で適応進化した多種多様な生物が、いろいろな形で関わり合いながら生きている状態を表わす概念です。環境に適したさまざまな植物を育てることで、多様な虫や鳥などを集めて生態系を大切にし、地球にとって負荷がかかりにくい環境づくりに参加する取り組みです。

コミュニティづくりは、このスペースを誰もが気兼ねなく自分の庭のように大切に使い、このスペースで知り合う人に時間や会話を共有してもらい、それぞれの喜びに繋がることを目指しています。

この団体には、3つのグループがあります。一つは、グリーン・グループ。この敷地に配置してある26個のプランターを統括しています。一家族あたりプランターを一つ担当するというコンセプトの活動では、それぞれの好みやプランで植物を植えて育てます。夏休みなど長期の休暇に、お互いが助け合って水やりを行う仕組みを計画し、持続可能な具体策を提案し、皆の意見をまとめるのがグループ担当の役割です。順番待ちをしている家族や順番待ちをしたい家族に向けた説明会や調整も行っています。

もう一つは工房グループ。敷地には、工房として使える小屋が立っており、手仕事に使う道具を収納できます。鳥の巣箱を作るなどの共同イベントの他、この地区は大半が集合住宅なので、集合住宅の環境では難しい大工仕事をしたい場合の調整を行います。

最後は、イベント・グループ。敷地に設置してあるドームの管轄の他、この敷地でイベントを行いたい人には、年齢や住所、国籍に関わらず、誰でも参加できることを条件として貸し出しを行います。夏には、屋外にテーブルを並べ、参加する人が1、2品を持ち寄り、皆で一緒に食事をするコミュニティ・ダイニングには、映像撮影の申し込みがありました。今月のイベントは「かぼちゃの日」、12月には「クリスマスを待つヒュッゲの会」、2月には「春待ち祭り」などが予定されています。

今月の「かぼちゃの日」というイベントでは、小さな子どものいる家族が集まりました。地元のオーガニック農家が生産した野菜やりんごの販売は、あっという間に売り切れ御免に。このイベントに興味を持つ層とオーガニック農産物や地産地消を支持する層の一致が顕著でした。かぼちゃの中身をくりぬき、目と鼻と口を開け、中にろうそくを灯した「ジャック・オー・ランタン」を作ったり、かぼちゃのスープに舌鼓を打ったり、参加者はそれぞれに楽しい午後を過ごしました。

このスペースは、誰でも自由に使ってよいことが特徴です。毎日の散歩の休憩をここで過ごす人、保育園や幼稚園の散歩の途中、ここでお弁当を広げる人、近くのシニア施設から運動を兼ねて歩行補助器を使って訪れる人、多様な花の水やりを楽しみにやってくる人、隣にある幼稚園から帰りにどんな花が咲いているかを確認するために必ず立ち寄る家族、ドームが好きでぴかぴかに掃除をしてくれる人など、利用者のプロフィールも利用方法もさまざまです。

「コミュニティ・キックアン」は、このスペースが多くの人にとって身近な存在であること、憩いの場所になることを念頭に働きかけを行っています。来年開催予定のWorld Capital of Architecture 2023のイベント開催地の一つとしても認可されており、2023年5月から9月の間に4回予定されているセミナーでは、これまでの経過やこれからの展望を伝える予定です。

ここで展開しているバイオダイバーシティーへの視点とコミュニティの考え方はユニークな試みで、自治体だけではなく各種財団からも興味深い支援対象となっています。かつて、住民の主導で始まった海浜公園プロジェクトと同じように、40年後、同じ地区で、新たに先駆的な試みの共同体活動が始まっています。

文: くらもとさちこ
写真撮影: Jan Oster

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