Julen

クリスマス

クリスマスは、デンマーク語でJULと書きます。キリストの降誕を記念するため、12月25日・26日が祝日として制定され、12月25日は第一クリスマス、12月26日は第二クリスマスと呼ばれています。クリスマス・イブと第一クリスマス、第二クリスマスの3日間、一部のベーカリーやカフェ、小規模のスーパーを除き、大概の店は閉まり、街は閑散としています。

例外は文化施設チボリ。年末までクリスマス開園を行なっているチボリでは、クリスマスの間も楽しむことができます。

デンマークでは記念日を「前夜」に祝うことが一般的のようです。第二次世界大戦で占領されていたドイツ軍から解放された解放記念日[註1]も前夜に祝いますし、夏至祭も前夜に祝います。あと数日で迎える新年も大晦日に華やかに祝います。そして、クリスマスは12月24日、クリスマスの前夜に祝うのです。デンマークでのクリスマスのハイライトは、クリスマス・イブになります。

「クリスマス」という言葉は12月全体を指すこともありますが[註2]、広義では、クリスマスから4回遡った日曜日から始まる降誕節「アドベント」の初日[註3]、「アドベントの第一日曜日」から、1月6日の「東方三賢者の日」までを指します。

 「東方三賢者の日」は、「東方三博士の日」とも呼ばれ、東方で、救世主の誕生を告げる星を見た三人の占星術の学者カスパール、メルキオール、バルタザールが、ベツレヘムに降誕したキリストを訪れ、黄金と乳香と没薬という3つの贈り物を捧げて降誕を祝福した日を指します。キリストが救世主として祝福された重要な日だと言われています。

デンマークの子どもにとって、12月24日は喜びと期待に満ちたクリスマスのハイライトなのですが、長く長く感じる一日でもあります。クリスマスの晩餐やプレゼントに思いを馳せながら遊ぶのですが、なかなか時間が進んでくれないのです。一方、大人にとっては、料理やプレゼント、しつらえ、服の用意など、クリスマスを迎えるための最終準備に忙しく、一年で最も一日を短く感じる日かもしれません。

我が家では、ここ数年、クリスマス・イブに寒中水泳を行う行事が加わりました。健康意識の高い夫の娘の夫の提案なのですが、息子も断りきれずに参加し、零度近くの気温の中、家の前にある海浜公園で勇ましく海水に入りました。寒中水泳は血行を促し集中力を養う効果があると言われており、健康意識の高い人や瞑想を好む人などの間で習慣化しているようです。

予め入手したもみの木は、まず、屋外で電飾を飾って楽しみ、12月24日の午前中に電飾を外して居間に持ち込みます。クリスマス・イブの前日12月23日に居間に持ち込む家庭もあるようです。クリスマス期間を自宅から離れて親族の家で過ごすことが多い家庭での楽しみ方なのかもしれません。 

居間に持ち込んだもみの木は、部屋の温度でふんわりと独特の香りを放ちます。持ち込み時に大切なのは、もみの木の位置。デンマークでは、晩餐の後、もみの木の周りをぐるりと囲んで、クリスマスにちなんだ歌を歌う慣習があるため、もみの木の周りには、大人が木を囲んで動けるスペースをとる必要があるのです。

屋外に飾っていたもみの木を室内用の台に挿し替え、数時間、雨露が乾くのを待ちます。この間、もみの木についた雨露が蒸発するので、その香りが楽しめます。お昼を境にクリスマスの飾りを施します。天辺にキリストの生誕を示したとされる「クリスマスの星」を飾り、すぐ下に天使や星、その下に妖精や鳥や小さめのガラス玉を飾ります。中段あたりからは大きなガラス玉や松ぼっくり。今年は、実家で扱っていた反物の端切れを使ったオーナメントも飾りました。もみの木を飾る度に、子どもの頃に雛人形を飾ってもらった光景を思い出します。オーナメントを飾り終えると、もみの木全体に小さめの蝋燭をたくさん飾ります。我が家で使うのは蝋燭の形をしたリモートコントロールの電飾ですが、夫の娘の家庭では、今も本物の蝋燭を使っています。最後に、2mm幅25cmの長さほどの細い細いテープ状の銀の飾りをもみの木に施します。この銀色の細いテープで、もみの木はクリスマスツリーに変身するのです。

夕方4時になると、近くの教会でのクリスマス・ミサに出席します。クリスマス・イブのミサは3回行われるのですが、息子に洗礼と堅信礼の按手を行なってくださった牧師さんが説教をなさるミサへ出席し、牧師さんに挨拶させていただくことを楽しみにしています。

我が家でのクリスマスの晩餐は、ローストポークが主菜です。デンマークで最も典型的なローストポークと鴨の丸焼きという組み合わせだったのが、いつ頃からかローストポークだけになったようです。少し異色なのは「フリカデラ」と呼ばれるデンマークの小ぶりなハンバーグを添えること。北ユトランドあたりの風習らしいのですが、我が家の必須アイテムとなっています。つけ合わせは、伝統的な紫キャベツの甘酢煮[註4]。茹でじゃがいもに加えて、予め茹でておいた小さなじゃがいもをキャラメル和えにした「キャラメルポテト」[註4]、ブラウンソース、赤すぐりのジュレを添えた半割りりんごのコンポートも用意します。最近は、さっぱり感のある紫キャベツのサラダにも人気があります。

自分の家でローストポークや焼ける香りがすると、クリスマス気分を満喫でき、とても幸せな気持ちを味わえるという夫の娘の気持ちを大切にし、ここ数年のクリスマス・イブは娘の家で催しているのですが、ローストポーク以外の料理を仕込むのは私の役割です。二件隣に住んでいる環境とはいえ、10人分の料理パーツの移動は大きめの保存ボックス3つ分となり、この移動は教会に行くために服を着替える前の夫と娘の夫と息子に頼んでいます。クリスマス・プレゼントも大きな箱にいっぱいに詰めて移動させます。

教会のミサが行われている間、晩餐直前に皮を剥くじゃがいもを茹でたり、茹でて皮を剥いておいた小さなじゃがいもをキャラメル和えにしたり、紫キャベツの甘酢煮を温めたり、という最終準備に入ります。その間、夫の娘は母親と娘と一緒にテーブルセッティングを詰めたり、ローストポークの焼け具合を確認します。雑誌で見かけるように洗練されたセッティングではないのですが、娘の思いが込められた温かさのあるしつらえのクリスマスの食卓です。

夫と息子、娘の夫、娘夫妻の息子がクリスマスのミサから帰ってくると、茹で上がったじゃがいもの皮剥きに参加してもらい、ソースを仕上げたり、ローストポークの皮をかりかりに焼いたり、用意ができている料理を盛り皿によそうなど、食卓に持っていけるだけ段階まで準備します。早めに食卓に置いておくと、テーブルの下から手が伸びてくることがあるから・・・と注意深いのは、夫の娘の母。クリスマス・イブの晩餐の前にテーブルクロスがかかった食卓の下を遊び場にし、おいしそうな香りがしてくると、こっそり失敬していた自らの経歴を毎年聞くのですが、彼女の幼い頃の姿を思い浮かべ、その微笑ましい様子に笑みが溢れます。

晩餐の予定時刻が少しずれ込むのは定例で、今年の晩餐は18時30分頃に始まりました。大きな皿に盛り付けられた料理は、好みの量を自分の皿にとった後、同じ方向で隣に回します。今回の人数は10名でしたが、一皿に並ぶ料理が10品近くになるので、全員が取り分けるまで、かなりの時間がかかります。全ての料理が皆の皿に行き渡ってから、乾杯でクリスマスを祝います。[註5]

料理を盛られた皿が三回目に食卓を回る頃になると、子どもは食卓の周りで静かに遊びながら、大人の食事が終わるのを待ち続けます。一日中待ち続けた最後の頑張りです。

晩餐の後には、クリスマス・ツリーを囲み、皆が手を繋いで、ツリーに飾られている蝋燭に火をつけ、美しく飾られたクリスマス・ツリーの周りをゆっくりと回りながら、クリスマスの歌を歌う慣習があります。キリストの降誕を尊ぶ讃美歌やクリスマスを愛でる歌を皆で手を繋いで木の周りを歩きながら歌う慣わしは、北欧独特の慣習だと聞いていますが、私にとっては、最もクリスマスらしい瞬間に思えます。

メインの料理が下げられた後、デザートが運ばれ、デザートを食べ終えてから、クリスマスツリーを囲むのが本来の順序ですが、小学生になったばかりの子どもが待ちきれないので、デザートの前にクリスマスツリーを囲んでいます。15歳の息子が幼かった頃は、蝋燭の灯りを一緒に灯すのがハイライトで、もみの木の周りを回りながらクリスマスの歌も歌うことそのものが楽しかったように覚えているのですが、子どもが待ちきれないのはクリスマスツリーの下に置かれた沢山の贈り物を開けることだと教えてもらいました。

夫の娘夫妻は典型的なデンマーク家庭で育ち、どちらの親も離婚と再婚を重ねています。離婚率が世界一高いと言われるデンマークらしい事例です。そのため、夫の娘の子どもたちには、おじいちゃんやおばあちゃんにあたる人が8人以上、おじさん、おばさんも10人以上揃っており、クリスマスの贈り物があちこちから届くと、クリスマスツリーの下には収まり切らないほどです。

クリスマスの贈り物には、それぞれに誰から誰にという小さな札がついています。贈り物を最初に選ぶ人が指名され、その人は、クリスマスツリーに所狭しと並んでいるプレゼントから一つを選び、そのプレゼントに書かれている宛先の人に渡します。プレゼントをもらった人は、まず、プレゼントを開け、皆に見てもらい、贈り主にお礼を述べます。ハグやキスの時もあります。プレゼントを開けた人が、次のプレゼントをもみの木の下から選び、そこに書かれている宛先の人へ渡します。この工程は、プレゼントがなくなるまで繰り返されます。

去年のクリスマス・イブには、メインの料理とデザートの間にこの工程を続けたため、デザートを出したのが23時近くになりました。クリスマス・イブのデザートにはお楽しみがあるので、子ども達も眠るに眠れず、眠い目をこすりながらデザートを食べていたという経験から、今年は、クリスマスプレゼントを半分くらい開けるとデザートにするという趣向になりました。

デンマークでのクリスマス・イブのデザートは、「リ・サラマン」という名前の米のミルク粥のクリーム和え[註6]。定番中の定番です。温かいチェリーソースを添えます。ミルク粥は前の日から仕込み、当日、薄皮を剥いたアーモンドのスライスを加え、よくなじませて冷たくしておきます。メインの料理を下げた後、ふんわりと柔らかく泡立てたばかりのホイップクリームをミルク粥と和え、冷やしておいた深めの器に入れるのですが、その時点で、ホールアーモンドを一つ忍ばせます。チェリーソースは、デンマークで晩夏に採れるチェリーをシロップ漬けにしたもので、これは熱々をソースポットに入れて供します。

「リ・サラマン」は、食卓で冷たいミルク粥のクリーム和えを銘々の皿にとり、その上に熱々のチェリーソースをかけます。お楽しみは、自分の皿にホールアーモンドが入っているかどうか。ホールアーモンドにあたった人には、プレゼントが渡されるという遊び心あるデザートです。プレゼントには、上等なローマジパンで作られた伝統的な豚のお菓子を用意することが一般的ですが、今年のアーモンド・プレゼントを担当した娘の夫は、カードゲームを用意していました。

残りのプレゼントを開け終えて、クリスマスの宴の幕を閉じたのは、23時がずいぶん過ぎていました。プレゼントの数が多いと、一つ一つ開けるので、時間がかかります。でも、プレゼントを開ける喜びを当人だけでなく、その場にいる人と分かち合えるのは素敵な習慣だと思います。

12月25日、26日は、クリスマスの祝日です。親族総勢が集まって「クリスマス・ランチ」と呼ばれる午餐を行ったり、クリスマス・イブを一緒に過ごせなかった親族を訪ねたりする形が王道です。寒い気候ですが、一同で日中ゆっくりと散歩を楽しむこともよくあります。日本のお正月の過ごし方と似ているように思います。デンマークのクリスマスは、静寂で穏やかな雰囲気が漂います。

[註1] 第二次世界大戦中、デンマークは1940年4月9日から1945年5月5日まで、ドイツ軍に占領されていました。

[註2] 12月のヒュッゲは、こちらでご案内しています。合わせてご覧ください。

[註3] アドベントはクリスマスから4回遡った日曜日から始まるため、変動制です。今年は11月27日でした。

[註4] 誠文堂新光社刊「北欧料理大全」201ページでご紹介しています。

[註5] 乾杯はSKÅL、クリスマスおめでとうはGLÆDELIG JULです。
今の乾杯はクリスマスの料理に合わせた赤ワインで行いました。子どもとアルコール飲料が飲めない人には、お茶をベースにしたスパークリング・ドリンクを用意しました。

[註6] 誠文堂新光社刊「北欧料理大全」207ページでご紹介しています。

文: くらもとさちこ
写真撮影: Jan Oster

Previous
Previous

Tivoli & Tivoli-Garden I

Next
Next

Juleåbning i Tivoli