Når syrenen er sprunget ud

ライラックの花が咲く頃

デンマークでは、5月に入るとようやく春めき、時には初夏を思わせる気候を迎えます。キリスト昇天祭や聖霊降臨祭、そして、今年が最後になるデンマーク独自の祝日「大祈祷日」も5月のため、サイクリングやドライブ、サマーハウスで春のひとときをゆっくりと楽しむ習慣があります。

うちの息子はジュニア音楽隊に所属しています。この音楽隊では公演に必ず参加するという規約があります。定期公演は、4月から9月までの間、3週間の夏休みと数回の例外を除き、毎週末に予定されているため、我が家では、5月のお休みを連休として享受できる確率はかなり低いのですが、今年は、音楽隊での活動がなかった祝日の木曜日と学校が休みだった金曜日を利用して、春の風景を楽しむ小旅行に出かけました。

コペンハーゲンは、1000年以上に渡ってデンマークの政治、文化、経済の中心となっている人口80万あまりの首都ですが、国の最東部に位置します。バルト海の入り口となるオアソント海峡で関所のような機能や要塞としての役割を果たすためには格好の場所だったのです。

首都コペンハーゲンから西に電車で1時間半ほどのところに、童話作家アンデルセンの故郷オーデンセがあります。オーデンセは、フュン島と呼ばれる島にあり、人口約18万人の街です。フュン島最大、そして、国内では3番目に大きな街です。

今回の小旅行は、フュン島の南半分の海岸線をドライブで楽しむことにしました。フュン島は果樹栽培が盛んな地域なのですが、5月にはあちこちの果樹園でりんごの花が咲き誇ります。そして、ライラック。フュン島南部では、昔から防風林代わりにライラックを植える習慣がありました。この防風林代わりのライラック並木は、今もあちこちに残されており、5月にはライラックの花に美しく彩られた道をサイクリングやドライブで楽しめます。地域おこしプロジェクトの一環として、ライラックを自転車や車、散歩で楽しむルートが案内され、ライラックのイベントなども行われています。

今回のドライブでは、昔、漁師がたくさんいたという小さな漁村に立ち寄った後、できるだけ海に近いところを通りながら、スヴェンボー(Svendborg)という由緒ある港町の近くのホテルに到着。スヴェンボーは人口2万7千人の街で、フュン島ではオーデンセに次ぐ大きさです。海軍の基地があったためか、辺りにたくさんある島に繋がる拠点のためか、海のイメージが強い印象があります。

お昼は、海を見渡せる庭が広がるホテルのテラスで楽しみました。このような宿泊施設で用意されるお昼は、たいていスモーブロ。デンマークを代表するオープンサンドイッチ形式の食事です。デンマークのライ麦パン『ロブロ』を使うことが多く、上にたっぷりと具をのせます。サンドイッチという名前から軽食のように感じますが、ナイフとフォークで食べる料理です。パンが見えないくらい具をのせるのが上等とされていますが、一枚を美しい庭のように飾ることがよしとされています。色合い、食感、味わいなど、さまざまな要素をバランスよく盛り込むことがポイントです。

白身魚のフライをレムラードソースと一緒に楽しむ一品は定番中の定番ですが、こちらの魚は地魚が使われていました。最近のトレンドも配慮され、菊芋のコンフィという野菜メインのスモーブロがメニューに並んでいました。

デンマークでは、去年、公式の食指針が改訂されたのですが、環境を大切にするという目的で、豆製品を含む植物性食品の摂取が奨励されたことが特徴となっています。若い世代の人々を中心とするヴィーガン旋風を後押しする形になりました。スモーブロという伝統的な料理のジャンルでも野菜が新しい形で取り入れられる傾向があります。日本では「まごわやさしい」など、植物性食品メインの食事が健康を築くという考えが浸透しているように感じますが、酪農王国デンマークでも、地球を大切にする観点から植物性食品をメインにした食事の提唱が注目を集めています。

テラスでゆっくりと食事を楽しみ、近くの名所を巡り、宿泊施設の庭やベランダでゆったりとした空間を楽しんだ後は、夕食のひととき。6月が近づくと、お天気のよい日には、テラスで黄昏のひとときを肌で感じながらの食事が楽しめますが、5月中旬は時期尚早。それでも日没時間は21時過ぎなので、大きな窓越しに美しい黄昏を数時間に渡って楽しみました。

5月は地物のアスパラガスが出始めます。今回の夕食にも、すぐ近くの農家さんのアスパラガスが使われていました。そして、5月の旬の野菜ルバーブは、おいしいソルベに仕立てられていました。

翌日は、フュン島の南側の海岸線をドライブし、たわわに咲くライラック並木を楽しみました。フォボー(Faaborg)という西側の南海岸にある人口7千人ほどの街にも訪れ、昔からの街並みを歩きました。フォボーには昔の建物が保存されている美観地区が多く、おとぎの国のような雰囲気がある街です。 

フュン島では春の風景を満喫しましたが、花盛りのライラックスポットとなっていた古民家に立ち寄り、大きなお庭をぐるりと周り、ライラックのシロップを使ったケーキとジュースを楽しみました。息子が小さい頃、散歩の途中にライラックの花の蜜を吸うのが好きだったことを思い出しました。この花の蜜がシロップになるのですね。水切りヨーグルトにシロップをかけてライラックの花を飾っても素敵ですね。ライラックのシロップ、来年の5月に作ってみようと思いました。

フュン島で最後に訪れたのは、オーガニック農家。採れたての新じゃがと白とグリーンのアスパラガスをたくさん買って家路に着きました。

新じゃがは、デンマークで初夏を象徴する野菜。ゴルフボールより小さいくらいのサイズが上品でおいしいと言われています。塩を多めに加えた湯で数分茹でるというシンプルな方法で楽しみます。掘り起こしたばかりの新じゃがは、手で軽くこするだけで皮がするっと剥けます。茹でる時間はほんの数分。水が沸騰した段階で火を止めて予熱で火を通す方法もあります。新じゃがには、溶かした有塩発酵バターをソース代わりにすることが一般的です。アスパラガスをさっと茹でる場合の黄金の組み合わせはオランデーズソース。今回のホテルでの夕食にも使われていましたが、北欧料理大全P75でもご紹介しています。パセリなどのハーブと一緒に半熟気味の茹で卵を粗く崩してソース代わりにしても簡単でおいしいですね。

春のフュン島、ぜひお訪ねになってみてください。

文: くらもとさちこ
写真撮影: Jan Oster

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