Anemoner i bøgeskoven
イチリンソウが咲く頃
デンマークでは、4月下旬に雪や雹が降ることも珍しくありません。今年は、朝の気温が2℃前後、最高気温8℃の日が一週間近く続きました。
4月は橅の森でイチリンソウが咲く季節です。
直径3cmくらいの小さな花ですが、橅の古木の根元にびっしりと生息しているため、その可憐な花が咲く時期には、森はイチリンソウの絨毯で彩られます。
イチリンソウの花は、橅の若葉が繊細なレースのように森を彩るまでの間に楽しめます。橅の若葉が森を覆う頃になると、太陽の光は地面まで届かなくなるのです。
この時期の橅の森には春を迎える特別な雰囲気があるため、どうしても森に出かけたくなります。思い入れが深いためか、こちらでも同じ時期の森の様子を綴っています。併せてご一読ください。
イチリンソウの花が咲く頃には、イラクサの新芽も芽吹きます。デンマークでは、柔らかい新芽を摘み、スープの具にする慣習がありました。イラクサの濃い緑には、冬の間欠乏しがちなビタミンやミネラルが豊富に含まれていて、薬効的に大きな意味を持っていたそうです。
イラクサは「やけど草」という別称があります。葉にあたってしまったところが火傷をしたようにヒリヒリするので、摘むときには手袋が必須です。けれど、手袋をしない方が、おいしいところを調節して詰めるため、私はついつい手袋を外して摘んでしまいます。
イラクサは、柔らかい芽をさっと茹でて使いますが、独特の甘味が特徴です。わずかに感じる苦味は、春の野草のようにも思えます。
我が家では、イラクサをポタージュに仕立ててロブロ・クルトンを添えて楽しむのが定番です。
ロブロ・クルトンは1 cm角のサイコロ状にカットしたロブロにオリーブオイルを薄くコーティングさせて150℃くらいでゆっくりローストします。フライパンで炒ることもできます。おやつとして、おかきのようにぽりぽりと食べてもおいしいし、ビールのお供としても楽しめます。
ロブロ・クルトンは、5/13発売の『北欧デンマークのライ麦パン ロブロの教科書』でもご紹介しています。
イチリンソウが満開になる頃、橅の透き通るような若葉が芽吹き始めます。橅は、虫が若葉を食べ始めると葉に毒を送り、虫から身を守るのだそうです。そのため毒を葉に送らない芽吹き始めの若葉だけ食べれるのだとか。その仕組みは、今尚、詳しく解明されていない神秘なのだそうです。自然の偉大な力を感じますね。
森で育った夫は、この時期に森を散歩するときには、この橅の若葉をおやつのように食べています。子どもの頃の名残なのだそうです。
橅の若葉は少し酸味があり、サラダに春らしい彩りを与えてくれます。このサラダにもロブロ・クルトンをパラパラっと加えると食感と味覚に奥行きが出ます。
あと少しで、デンマークにも本格的な春が訪れます。
文: くらもとさちこ
写真撮影: Jan Oster