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大祈祷日のパン

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キリスト教で重要な位置付けの復活祭(イースター)は「春分の日の後の最初の満月の次の日曜日」に祝われる移動祝日です。十字架に掛けられたイエス・キリストの復活を祝う行事と、生命の息吹に満ちた春の到来が重なり、喜びの相乗効果を感じます。

デンマークでは復活祭から四回目の金曜日に「大祈祷日」を設けています。復活祭から数えて設定されるので、毎年日付が異なる移動祝日です。年に三回ほど設けられていた「祈祷日」を「大祈祷日」として年一回にまとめたという言われがあり、17世紀後半から続くデンマーク独自の祝日です。

「大祈祷日」前夜には、午後6時に鳴る教会の鐘を合図に飲食が禁じられ、アルコール類の販売も停止されました。仕事や娯楽も禁止され、「大祈祷日」当日の定刻に素面で教会に行くことが義務付けられていました。

「大祈祷日」前夜から禁じられた飲食は礼拝が終わるまで続き、礼拝の後、パンで「大祈祷日」を祝う習慣が伝統となりました。デンマークのお祝いパンは焼き立てを用意するのが一般的ですが、「大祈祷日」には前夜から仕事が禁止されていたため、パン屋も祝日休業となり、礼拝が終わるまでは、家庭でもパンを仕込んだり焼いたりする「仕事」は許されていなかったのです。そのため、前日の夕方までに「大祈祷日」のお祝いパンを焼き、「大祈祷日」の当日に、そのパンを温めて供するという解決策が生まれました。

「大祈祷日」のお祝いパンは、「小麦」を意味する「ヴィーダ」と呼ばれています。昔、高緯度に位置するデンマークでは最南部でわずかな量の小麦しか生産できなかったため、ふるいにかけて表皮と胚芽を除いた小麦粉は贅沢品でした。小麦粉ベースのパンは、祝日や特別な日にのみ供されていたのです。

「ヴィーダ」はお祝いパンなので、小麦粉にバターや牛乳、卵を加えた贅沢な生地で作り、カルダモンの風味を効かせます。一人分に分割して丸めた生地を、ちぎりパンになるように並べて焼くため、ソフトな食感が特徴です。それぞれがふっくらとふくらんでいる様子から「小麦のつぼみ」という別名もあります。

「ヴィーダ」は生地の配合や成形法が決まっていますが、食べ方にも不文律があり、ナイフで上下を二分割し、軽くトーストして温めた状態で供します。デンマークでは、お祝いパンにバターを厚くたっぷりと塗る習慣がありますが、この「ヴィーダ」にも室温にもどしておいたバターを添えます。はちみつやジャムを塗ることもあるようですが、私はカルダモンの香り高く焼き上がったパンの風味を発酵バターで味わうのが好きです。「大祈祷日」当日に軽くトーストして楽しむパンですが、焼きたてのおいしさは格別なので、「大祈祷日」前日の夕方に楽しむ人も多いようです。

断食や断酒、礼拝に出かける義務がなくなった今日、「ヴィーダ」は「大祈祷日」を象徴する食文化として根付いています。元々、「大祈祷日」前日の夕方に向けて焼かれるパンでしたが、現在は「大祈祷日」の二週間くらい前から当日までパン屋やスーパーの店先に並びます。「ヴィーダ」を店頭で見かけるようになると「大祈祷日」が近くなってきたなと感じる風物詩としての役割を担っています。

「ヴィーダ」が店頭に並び始めると、ついつい賞味したくなります。そして、自家製「ヴィーダ」には、家中が焼きたての香りに包まれるという喜びと、好みの小麦を使えるという醍醐味があるように思います。そこで、我が家では、まず、「大祈祷日」の一週間くらい前においしいパン屋さんの「ヴィーダ」を楽しみます。予行演習みたいなものですね。そして、「大祈祷日」前々日にパン生地を仕込み「大祈祷日」前日の夕方に焼き立てになるように準備します。「大祈祷日」前日の焼きたて「ヴィーダ」と「大祈祷日」当日のトーストした「ヴィーダ」、どちらも捨て難いおいしさです。

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